第83章 残念、彼女は既に結婚していた

神崎美咲との後味の悪い会談を終えた直後、綾瀬美月の携帯が再び震えだした。

画面には「江口和延」の名前が明滅している。

彼女は小さく深呼吸をして気持ちを切り替えると、通話ボタンを押した。

「江口さん」

「美月ちゃん、仕事中にお邪魔だったかな?」

江口和延の声は、以前と変わらず穏やかで温かい。

「いいえ、大丈夫です。どうされましたか?」

「実はね」

江口和延の声色が、少しだけ改まったものに変わる。そこには期待と、ある種の厳粛さが滲んでいた。

「『初音』ブランドの国内市場復帰計画が、いよいよ始動することになったんだ。準備段階から核心となる人間に動いてもらう必要がある。私ももう歳だ...

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