第109章

下心に浮かれていた中年男も、近づいてきた人物の顔をはっきり認めた瞬間、全身の血がすうっと冷えた。

髙野拓海――。

追ってきやがったのか。

頭の中ががん、と真っ白になる。膝が笑い、踏ん張りが利かない。残ったのは恐怖と狼狽だけだった。

さっきまで、髙野社長は大勢の前で「知らない」と言い切ったはずだ。なのに、なぜ今ここに――?

まさか、本当にこの女に目をつけた?

そう思った途端、男の威勢は糸が切れたみたいに萎んだ。星野芽衣の前から、転げるように後ずさる。

「た、髙野社長……!」

声は震え、額から冷や汗が噴き出す。男は両手をぶんぶん振り、必死に弁解した。

「ち、違うんです! 全部、...

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