第55章 わざとじゃないことは分かっている

形だけ引き止めて慰めの言葉を並べたものの、林谷拓朗の怒りがいっこうに収まらないのを見るや、林谷香奈はまた、聞き分けのいいふりをしてこう口にした。

「誠子さんも由佳も、わざとじゃないのよ。ただ、こんなことになるなんて思ってもみなかっただけで……」

言葉は柔らかい。けれど、その一つ一つが林谷誠子の「やらかし」を遠回しに突きつけ、火に油を注いでいるだけだった。

林谷拓朗はたまらず苛立ち、目の前のぐちゃぐちゃな有様にうんざりして、もうこの母娘の顔など見ていたくなくなる。

「ふんっ」

重く鼻を鳴らすと、乱暴に袖を振って踵を返した。床にへたり込んだ二人を置き去りに、怒りを引きずったまま階段を上...

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