第71章 どうでもいいこと

若くして家業を継ぎ、生涯を通して厳格に己を律してきた人だ。高い地位に数十年。食事も生活も、寸分の乱れも許さないほどきっちり整えている。

そんな彼にとって、路地の角で売られているような手頃なスイーツは、ふわりと柔らかく、甘ったるい――とっくに遠ざけてきた生活の匂いそのものだった。

本当は喉の奥がきゅっとなるほど欲しい。けれど、この歳で「食べたい」とは言い出しづらい。視線だけが何度も何度も、ショーケースの中へ吸い寄せられていく。

その小さな仕草を、星野芽衣は見逃さなかった。唇の端に、やわらかな笑みが浮かぶ。

街の味に慣れているせいか、芽衣はこういう屋台や小さな店のほうが、高級レストランよ...

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