第78章 君を連れて帰る

鼻を突く安物の香水に、かすかなカビ臭さが混じっている。逃げ場のない匂いが、じわじわと鼻腔の奥まで入り込んできた。

星野芽衣のまつ毛が、重たげに震える。鉛のように重い瞼が、ようやく細く開いた。

頭上のシャンデリアの光がやけに眩しくて、脳の芯がぐらりと揺れる。

身体に力が入らない。手足が鉛を詰められたみたいに重い。意識が戻った瞬間、背骨を駆け上がるように恐怖が全身へ走った。

――ここ、医学部じゃない。グラン・ビューでもない。

むしろ、ホテルの一室だ。

下野千秋に会いに行く途中だったはずなのに、どうして自分がこんな場所にいる?

その時、ぞっとするほど不快な視線が、遠慮なく彼女の身体に...

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