第10章 名刺

彼女は本来、事情をきちんと説明して、あとで新しいハンカチを買って返せばそれで終わるつもりだった。まさか、こんな細かいところまで問いただされるとは思っていなかったのだ。

 古沢信弘はわずかに首を傾け、唇の端をふっと持ち上げた。

 ――何か隠したいことでもあるのか。

 このハンカチは上質だ。いや、正確に言えば、彼の身の回りにある物はどれも一流だった。

 相馬寧の腕には傷がある。あれだけ水ぶくれができていて、まともに力など入れられるはずがない。そんな状態で、こんな大判のハンカチをずたずたに裂けるものだろうか。

 男がにこやかな顔で自分を見つめているのを前に、相馬寧は深く息を吸い込み、その...

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