第25章 桶理論

相馬寧は慌てて身をかがめ、床に落ちたペンを拾おうとした。

勢いがつきすぎて、額が机の縁にぶつかりかける。

「気をつけろ」

頭上から降ってきた古沢信弘の声は、熱も冷たさもない。感情の読めない、淡々とした響きだった。

「申し訳ありません、古沢社長」

相馬寧はペンを拾い上げると、すぐに立ち上がる。

「少しぼんやりしていました。すみません」

「構わない」

古沢信弘は視線を引き、そのまま何事もなかったかのように会議を続けた。

相馬寧はそっと息を吸い込み、意識を無理やり引き戻す。

古沢信弘は何も言わなかった。けれど、なんとなくわかる。たぶん彼は、少しだけ自分に不満を抱いたはずだ。

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