第二十八章 形見

書斎に、数秒の沈黙が落ちた。

執事がベッドのそばに立ち、先に口を開いた。その声には、かすかな不安が滲んでいた。「この書物は……京都の山本堂の老職人が拝見して、手を出せないと申しておりました。水無瀬さまの鑑識眼は確かでございますが、もし作業中に何かあってからでは——」

明良が手を上げ、静かに遮った。

少し間を置いて、古書をそっと膝の上に置き、一葉を見上げた。その声には、おのずと重みが宿っていた。「水無瀬さん、もし差し支えなければ、今すぐ修復していただくことはできますか」

一拍置いて、視線を背表紙へ落とした。声は穏やかだった。「傷めてしまっても構いません。この本は長年私の手元にあって、経る...

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