第三十六章 琴の狂い

広間に静けさが漂った。二秒にも満たない、けれど確かな間だった。

詩緒の指がゆっくりと弦から離れていく。その動作はひどく緩慢で、まるでその時間で何かを整えようとしているかのようだった。

一葉を見ることなく、詩緒は静かに手を膝の上に戻し、わずかに頭を下げた。いつもと変わらない柔らかな表情を保ちながら、ただ口元の弧がほんの少しだけ浅くなっていた――半分にも満たない差で、よほど注意深く見ていなければ気づかない程度だ。だが斜め向かいに座っていた清那には、それが見えた。

清那は眉をひそめ、視線を詩緒の顔から一葉へと移した。そこで止まった。

この顔には見覚えがある。この人物のことも記憶している。けれ...

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