第三十九章 青葉実業

午前八時五十分、一葉は渋谷区の人通りの少ない通りに立ち、目の前の九階建ての平凡なオフィスビルを見上げた。

外壁のガラスには細かい水垢の跡がいくつかあり、エントランスの社名プレートはくすんで、縁の金属が一回り暗褐色に酸化していた。

始業時刻はとうに過ぎていたが、ビルに入っていく社員たちの足取りはどれも重く、焦りも活気もなかった——長年この「遅さ」に慣れきった人々のように、歩き方そのものにも何とも言えない倦怠感が滲み出ていた。

一葉は視線を戻し、中へ入った。

受付の若い女性は一葉を見ると、事務的に来訪者記録表を差し出した。顔を上げる気配すらなかった。

一葉は記録表に記入し、白い仮IDカー...

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