第六十六章 水無瀬律希

廊下は静かだった。陽光が窓から差し込み、床の上に細かく砕けた光の破片を落としていた。

一葉と暁弦は並んで歩いていた。足取りは急がず、どこかへ向かうというより、ただ散歩しているようだった。

演奏ホールの前を通りかかったとき、一葉の足が自然と緩んだ。

ピアノの音がホールから漏れてきた。ひどく静かな音で、誰かに聴かせるためではなく、自分のために弾いているような響きだった。

彼女は足を止め、ガラス扉越しに中を覗いた。

療養院では定期的に患者向けの音楽療法プログラムを実施していた。そのことは知っていた。けれど今日の演奏者が弾いているのは、彼女の知っている曲だった。

よく使われる療法曲ではない...

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