第七十七章 今はあなたの時じゃない

一葉が内線電話を置いてから三分も経たないうちに、夕凪がドアをノックして入ってきた。

「社長、お二人はもう向かっています」

一葉が頷くと、夕凪は退室した。

廊下の向こうで、千夏が席を立った。手には何も持っていない。ただ無意識に指先をきゅっと握りしめた。

内線の呼び出しを受けたとき、彼女は二秒近く固まってから、ようやく立ち上がった。

有村が反対側でスーツの襟元を整え、二人は廊下の入口で軽く頷き合い、社長室へ向かって一列で歩き始めた。

午後の光が横窓から斜めに差し込んでいた。

千夏が前を歩く。歩調は遅く、指が無意識に手のひらをなぞっていた。

廊下の中ほどの角、給湯室のドアが開いていた...

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