第八十章 桐葉亭にて

澄子から電話がかかってきたのは、午前十時を少し過ぎた頃だった。

一葉は書斎で神保哲也の資料を整理していた。デスクに広げたファイルには、倉科が提供した資金の流れを示すスクリーンショットと、澄子が昨夜送ってきた補足情報が挟まれている。三枚目から四枚目へとページをめくったとき、スマートフォンの画面が光った。

「今夜は仕事禁止。」澄子の声に有無を言わせない響きがあった。「桐葉亭、予約したから。慎也も来る。そろそろ紹介しておかないとね。」

一葉はわずかに間を置き、ファイルの縁に指を押し当てたまま答えた。「何時。」

澄子が時間を告げ、すぐに付け加えた。「メモ帳持ってきたら没収するから。」

「遅刻...

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