第八十一章 過去

えんじ色のスーツを着た男が個室に入ってくる様子は、いつでも颯爽と登場することに慣れた人間のそれだった。

彼は入口でいったん足を止め、視線を室内にさっと走らせた。雅斗を通り越して、梨花の顔の上で止まる。そのまま、笑ともつかない弧を口元に浮かべた。

自己紹介もなく、空いている席の隣に腰を下ろし、雅斗に向かって軽く顎をしゃくった。「友人の友人ですよ。通りがかりにちょっと挨拶を」そう言いながらテーブルの空のグラスを手に取り、なみなみと注ぐ。慣れた手つきで、何度も来たことがある人間のように。

梨花の笑顔は変わらなかった。

自分だけが知っていた——あの瞬間、背筋がすっと張り詰めたことを。彼を見知っ...

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