第八十七章 祖母

一葉はスマートフォンを握ったまま、書き机の前に立っていた。

画面の通話タイマーはまだ動いている。彼女は何も言わなかった。

藤堂も電話口で急かさず、静かに待っていた。

「今から行きます。」

電話を切り、コートを手に取った。

玄関で靴を履こうとしたとき、紐を半分結んだところで指先が絡まった。解いて、もう一度。二度目でやっと結べた。

こんな細かいミスは、彼女にはほとんどない。それでも立ち止まって考えることはせず、そのまま外へ出た。

廊下では澄乃がお盆を持って階段を上がってくるところだった。一葉の歩調と表情を見て、何も聞かず、ただ身を引いて道を譲り、階段を下りていく背中を見送った。

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