第九章 隠れた亀裂

一葉が引き戸を引くと、廊下の奥の格子窓から朝の光が斜めに差し込んできた。

廊下にはまだ誰もいない。

彼女は少しの間、戸口に立ったまま動かなかった。

水無瀬家で迎える、最初の朝だった。


蒼介は玄関に立ち、防水バックパックを背負って出かける準備をしていた。ウィンドブレーカーには昨日の泥が残っており、裾には荊棘に引っかかれた細い傷が幾筋も走っていた。

一葉が下りてくるのを見て、彼の表情がわずかに和らいだ。

「プロジェクトのデータに異常が出た。すぐ戻らないといけない。もう少しそばにいたかったんだが……一兄はロンドンに、二兄はウィーンに行ってる」

一拍置いて、続けた。

「何かあ...

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