第九十章 あの曲のこと

梨花は、その席札をじっと見つめていた。長い間、ずっと。

手の中のシャンパングラスがわずかに傾き、液体がほとんどこぼれそうになって、ようやく我に返り、グラスを持ち直した。

水無瀬。

関東の旧華族、百年の名門。主催者がその席のために用意した場所は、誰でも座れるものではない。

もう一度、瞬きをして見直した。

席札の文字は変わっていなかった。

梨花は心の中で、その光景を何度も何度も反芻してから、ようやく逃げ道を見つけた。

——きっと水無瀬家の誰かに連れてきてもらったのだ。

こんなこと、よくある話だ。

一葉はあんな顔をしているから、どこへ行っても人目を引いて、その注目を踏み台にして上へ...

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