第10章

満月の前夜。

和泉神社は、静かな、それでいて張り詰めた空気に包まれていた。

直哉は鳥居の下に立ち、空に昇りつつある月を見上げる。まだ完全な円ではないその月輪は、しかし、すでに十分な光を放ち、境内を白く照らし出していた。

「今宵が決戦の夜となる。満月の力は頂点に達する……それは千夏様にとって、そして、あの椿という女にとってもな」

隣に立った山田さんが、穏やかながらも重々しい声で告げた。

直哉は頷き、振り返って境内に目を向けた。村の人たちが自発的に集まり、神社の周囲に手際よくバリケードを築いたり、炊き出しの準備を進めたりしている。桜は、ドローンを飛ばして上空から指示を出しつ...

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