うちのお狐様

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渡り雨 · 完結 · 56.2k 文字

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紹介

家族の神社を継いだ和泉直哉は、思いがけず狐仙様である千夏と縁を結ぶことに。
封印された記憶と避けられぬ宿命に向き合いながら。
「千夏、僕は君と一緒にいるよ。運命の果てまで」
「ならばしっかりと私に付き添いなさい。ただし忘れないで、私のことは狐仙様と呼ぶのよ!」

チャプター 1

春の早朝。

古びた鳥居をくぐり抜けた陽光が、荒れ果てた和泉神社の境内を照らし出す。

そこは雑草が生い茂り、色褪せた狐の石像たちが、かつての賑わいを偲ぶように静まり返っている。風が吹くたび、今にも崩れそうな社殿の屋根がみしりと軋んだ。

和泉直哉、二十三歳。

洗いざらしのTシャツと作業ズボンという格好で、汗だくになりながら先祖代々の神社の境内を掃き清めている。平凡な体格だが、整った顔立ちに浮かんだ汗が、朝日を浴びてきらりと光った。

べちゃっ!

屋根の軒先から、白い鳥のフンがピンポイントで落下し、掃き清めたばかりの地面のど真ん中に命中した。おまけに、数滴がTシャツにまで跳ねてくる始末。

「ははっ……神社の跡継ぎの運なんて、こんなもんか」

直哉は自嘲気味に笑い、額の汗を拭う。

「鳥にまで舐められるとはな」

深いため息をつき、終わりが見えない掃き掃除を再開する。

ここ和泉神社は、かつて近隣で最も名の知れた場所だった。祀られている狐の神様は霊験あらたかだと評判で、参拝客が絶えることはなかったという。

「じいちゃんが亡くなってから、何もかも変わっちまった」

ぽつりと呟いた言葉が、静かな境内に吸い込まれていく。

神社は寂れ、今では参拝客もまばら。収入など無いに等しい。

直哉は都会での仕事を辞め、この場所を守るために帰ってきた。友人たちには『あんなボロ神社を守って、将来どうすんだよ』と笑われたが、それでもよかった。

『神様がいるなんて本気で信じてるわけじゃない。でも、これは家族への責任だ。じいちゃんが守ってきたこの場所を、俺の代で潰すわけにはいかない』

自分にそう言い聞かせる。

午後になり、直哉は裏庭の雑草が生い茂る一角の草刈りを始めた。

鎌を振るうたびに汗が背中を濡らす。地道な作業を進めていると、不意に鎌が何か硬いものにぶつかり、カキン、と澄んだ音を立てた。

「なんだ……?」

絡みついた蔓をかき分けると、そこに長年埋もれていた石像が姿を現した。

精巧な彫りの狐の神像。かなり年代物らしく、表面には奇妙な梵字と、封印と思しき紋様がびっしりと刻まれている。

「見たことないな。ずいぶん古そうだ」

直哉は興味深げに石像を眺める。

「境内に移せば、少しは参拝客の目も引けるかもしれない」

そう思い、石像を動かそうと力を込めたが、びくともしない。それどころか、苔むした表面で手を滑らせ、無様にバランスを崩した。あげく、石像の上に顔から突っ込む羽目になった。

「いててっ!」

地面に転がり、強かに打ち付けた腰の痛みに悶える。その拍子に、頬に小さな切り傷ができていた。ぽたり、と一滴の血が、石像の梵字の上に落ちる。

梵字が血を吸い込み、一瞬だけ微かな赤い光を放ったが、腰をさするのに夢中な直哉が、その怪異に気づく由もなかった。

道具を片付け、神社の隣にある母屋で休もうとした、その時。

裏庭から、石がぶつかるような異音が聞こえた。

「野良猫か?」

直哉は近くにあった箒を手に取り、恐る恐る音のする方へ向かう。

裏庭にたどり着いた彼が目にしたのは、信じがたい光景だった。

あの石像が月光を浴びて禍々しい赤い光を放ち、表面に蜘蛛の巣のような亀裂がびっしりと走っている。

「よ、妖怪が出たーっ!」

恐怖のあまり叫び声を上げ、手に持った箒を脳天気に掲げて「除霊の構え」をとる。だが、全身は恐怖でがたがたと震えていた。

パリンッ!

澄んだ音と共に石像は完全に砕け散り、その中から、着物をまとった一人の美しい少女が現れた。

燃えるような赤髪に、吸い込まれそうな金色の瞳。年は十六歳といったところか。

直哉は箒を掲げたまま、表情を凍りつかせて立ち尽くす。

少女は輝く金色の瞳をぱちくりさせると、予想だにしない第一声を発した。

「腹が減ったのじゃ。油揚げはないのか?」

その表情は天真爛漫そのもので、瞳は期待にきらめいている。

あまりに非現実的な出来事に、直哉の意識はぷつりと途切れ、そのまま気を失ってしまった。

「おい、人間。そなた、息災か?」

朦朧とする意識の中、何かが頬をつんつんと突いている。

うっすらと目を開けると、自宅の居間に寝かされており、あの赤髪の少女が木の枝を拾ってきたのか、興味深そうに俺の顔をつついていた。

「うわああああっ!」

我に返った直哉は悲鳴を上げ、部屋の隅まで転がるように後ずさる。

「やかましいぞ、人間。耳がキンキンするではないか」

少女は心底迷惑そうに耳を塞ぎ、眉をひそめた。

「だ、誰だ、お前!どこから来たんだ!」

「妾は千夏……だったはずじゃ。むぅ……妾は、誰じゃったかのう?」

少女はこてん、と首を傾げ、困惑した表情になった。

「どうも、よく覚えておらぬのじゃ」

「とぼけるな!」信じられるわけがない。「警察を呼ぶぞ!」

直哉がスマートフォンを取り出すと、千夏はそれを興味深そうに見つめ、指差した。

「その光る板は何じゃ?もしや、何かの妖具か!」

彼女は急に警戒心を露わにする。

直哉が答える間もなく、千夏はスマホをひったくると、両手で印を結び、口の中で何事かぶつぶつと唱えた。そして、

「邪気、退散!」

叫び声と共に、スマホを床に叩きつけた。

「俺の新しいスマホがぁっ!まだローンが残ってるのに!」

それからの一時間、直哉は本気で気が狂いそうだった。

千夏は、突然点灯した電灯に驚いて押入れに逃げ込み、水道の蛇口から水が出るのを見て「尽きることのない宝の泉じゃ!」と感動し、三十分も遊び続けた。冷蔵庫の中の食料には子供のようにはしゃぎ、「ひんやりして心地よいのう!」と大喜びだ。

この様子を見て、直哉は次第に悟り始めていた。

この千夏という少女は、本当に数百年も前の時代から来ており、現代世界について何も知らないらしい、と。

「じゃあ、お前……本当にあの石像の中から出てきたのか?」

半信半疑で尋ねると、千夏は眉をひそめた。

「石像?うぅむ……妾が覚えておるのは、とても暗くて、寒かったこと。それから血の匂いがして……次にそなたが見えたことだけじゃ」

夜も更け、直哉はひとまず千夏を一晩泊め、明日どうするか考えることにした。

客間を用意してやったが、千夏の奇妙な習性には呆れるしかなかった。

庭で犬の鳴き声がすれば、ビクッと体を震わせて棚の上に飛び乗って隠れる。窓の外の月を見れば、無意識に口を開けて遠吠えをしようとする。

「やめろ!近所迷惑だろ!」

慌ててその口を塞ぐ。

そして極めつけは、直哉がトイレから戻ってきた時のことだ。千夏が母屋に設えた神棚の前にしゃがみ込み、お供え物の油揚げをこっそり盗み食いしていたのである。

「おい!何やってんだお前!」

思わず声を荒らげると、千夏は口の端に油揚げのカスをつけながら、さも当然といった顔で言い返した。

「お供え物の品質を確かめておっただけじゃ!これも神使としての大事な務めなのじゃ!」

深夜。直哉は奇妙な物音で目を覚ました。

そっと寝床から起き上がって客間へ向かい、静かに戸の隙間から中を覗き込む。

月明かりが障子窓から差し込み、眠る千夏の体を白く照らしていた。

その姿に、直哉は息を呑む。

彼女の頭上には、ふわふわとした狐の耳が。そして腰のあたりからは、ふさふさの尻尾が一本、ゆっくりと揺れていた。

『まじかよ……』

衝撃的な光景を前に、証拠を残そうと咄嗟にポケットを探る。そうだ、さっき壊されたのはプライベート用で、仕事で使っていた古いスマホがまだある。

それを取り出してカメラを起動するが、焦りからか、うっかりフラッシュを焚いてしまった。

カシャッ!

強い光に驚いて千夏は目を覚まし、その金色の瞳が、戸の隙間から覗く直哉の目と、ばっちり合った。

「あっ」

慌てた直哉の手からスマホが滑り落ちる。すぐそばにあった水差しの中へ、ぽちゃんと虚しい音を立てて沈んでいった。

千夏は眠そうに目をこすっている。いつの間にか、耳と尻尾は跡形もなく消えていた。

そして、何もなかったかのようににへらりと笑う。

「夜中に乙女の寝込みを覗くとは、そなた、なかなかのすけべじゃのう〜」

しどろもどろで言葉も出ない直哉は、心の中で確信していた。

『間違いない……あの石像には、本物の狐の妖怪が封印されてたんだ!』

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