第10章

――いい話、だって?

相沢千尋は、全身が氷水に浸かったような錯覚に陥った。

少し離れた場所に立ち、二人の姿を見つめる。

交わされる会話は、一言一句残さず彼女の耳に届いていた。

父親が、自分を寝たきりの男に嫁がせるというのか。

自分の耳で聞かなければ、千尋だって信じられなかっただろう。自分を火の車へ突き落とそうとしているのが、他でもない実の父親だなんて。

だが、考えてみれば当然なのかもしれない。

評判を落とし、先も見えない娘と、これから名門・一ノ瀬家へ嫁ぐ見込みのある娘。どちらを選ぶかなんて、誰だって後者に決まっている。

結局のところ、相沢家にとって家族の情など最初から何の価値...

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