第109章

書斎は静まり返っていた。

やがて、橘柊一は床に落ちていた絵を静かに拾い上げた。

「父さんの言う通り、俺は夢を諦めて家業を継ぎました。ですが、誰と付き合うかの自由すらないと言うなら、橘の家名なんていつでも捨ててみせますよ」

それだけ言い残すと、父親が口を挟む隙も与えず、きびすを返して部屋を出て行った。

橘丈浩は息子の背中を見送りながら、怒りの後に遅れてやってきた愕然とした思いに囚われていた。

息子がどれほど芸術にのめり込んでいるか、成長をそばで見てきたからこそ知っている。芸術を諦めさせたとき、柊一は確かに反発したが、今日ほど頑なな態度は見せなかった。

それが、たかが一人の女のために...

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