第16章

電話の向こうで、数秒の沈黙が落ちた。

相沢千尋は心の中で冷笑した。

一ノ瀬律ほど聡明な男なら、事の重大さはとうに理解しているはずだ。今頃、どうやって事態を収拾するか頭を悩ませているに違いない。

「無事なら、それでいい」

ずいぶんと間を置いてから、電話の向こうから低く、何かを押し殺すような声が響いた。

相沢千尋は一瞬、呆然とした。

彼女が口を開くより早く、通話は一方的に切られた。

ソファに座ったまま、相沢千尋はしばらく呆けていたが、やがてふっと吹き出した。

何をもって無事だと言うのだろう。

あの一ノ瀬律が、自分を心配しているとでも?

相沢千尋はバスルームへ向かい、一糸まとわ...

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