第60章

橘柊一は相沢千尋を見つめる瞳の奥に、じわじわと暗い熱を帯びさせていた。

意味深長な笑みを浮かべ、彼が何かを口にしようとした、その時。

「何の話だ」

不意に響いた低い男の声が、その場に漂う微妙な空気を切り裂いた。

声のした方へ視線を向けると、個室の入り口には一ノ瀬律が立っていた。顔色はひどく沈み、その瞳は底なしの沼のように暗く濁っている。

橘柊一は軽く舌打ちをした。

「別に。ただの雑談だよ」

彼は相沢千尋をちらりと見ると、わざとらしく手を伸ばし、彼女の頬にうっかりついていたフルーツの果汁を指先でそっと拭い取った。

「後で連絡するよ」

橘柊一は二人の間に意味ありげな視線を投げる...

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