第72章

「きゃっ!」

艶めかしい空気が漂うバスルームに、相沢エリカの短い悲鳴が響き渡った。

水滴がぽたぽたと落ちる。つい先ほどまで笑みを浮かべていた彼女の顔は、今や驚愕に染まっていた。

一ノ瀬律が突然、バスタブの湯をすくい上げ、彼女の顔に浴びせかけたのだ。

「律、何するのよ」

彼女は彼がふざけているのだと思い、わざと唇を尖らせてみせた。

だが、一ノ瀬律の表情は底知れず暗く、その瞳には氷のような冷たさが宿っていた。

「ふざけるのはそこまでにしろ」

エリカの甘えるような表情がぴたりと凍りつく。どう反応していいか分からず、しどろもどろに口を開いた。

「何のこと……? 律」

律は苛立たし...

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