第121章 「負け」の字はない

古宮桐也は、千葉晴美が出てくるのを待って、どんな顔をしているのか見てやろうと思っていた。さっきの様子はどう見ても、恥ずかしさに耐えきれず逃げ出したそれだったからだ。

ところが、そのタイミングで電話が鳴った。車津からだった。

スライドして通話に出る。

「どうした」

「古宮社長、案件のほうで少しトラブルが出まして。すぐ来ていただけますか」

「わかった」

通話を切った直後、千葉晴美が部屋から出てきた。顔の赤みは、冷たい水で洗ったせいだろう、だいぶ引いている。もともと平静を装うのがうまいのもあって、もうさっきの動揺は読み取れない。

自然な表情に戻った彼女が、すでにコートに腕を通している...

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