第198章 この男は彼女よりも強い

その瞬間、千葉晴美はふいに言葉を失った。冷たく硬いはずの心が、目の前の男にじわじわと溶かされていく気がする。

怖いのは、事態が自分の手に負えないところまで転がってしまうことだ。心なんて、いつだって自分の思いどおりになるとは限らない。

「古宮桐也、私……」

「はいはい。今は旦那といちゃいちゃしてる場合じゃない。着替えて、顔も洗え。そうしないと帰ったとき説明つかないだろ」

古宮桐也はトランクから袋を取り出し、千葉晴美に手渡した。覗き込むと、替えの服に靴、さらにクレンジングまで入っている。千葉晴美の目尻がぴくりと跳ねた。

用意が周到すぎる。つまりそれは、今回の動きが彼の掌の上だったという...

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