第88章 妻は俳優だ

千葉晴美は、ほとんど考える間もなく突っぱねた。

「寝言は寝て言って」

「じゃあ、キスする」

古宮桐也はまるで意に介した様子もない。だが、身を乗り出したその瞬間、千葉晴美にぐいと押し返された。

胸が、どくどくとうるさいほど高鳴っていた。

とくに、彼が顔を寄せてきたあの一瞬。男の澄んだ匂いが四方から押し寄せてきて、呼吸まで奪われそうになる。

千葉晴美だって、男と接してこなかったわけではない。けれど、古宮桐也みたいに見た目がよくて、しかもあんなふうに自然に距離を詰めてくる相手は初めてだった。さすがに調子が狂う。

それに何より厄介なのは、彼がこうして目の前に座っていても、次に何をしてく...

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