第175章 席替え

「大丈夫かい? 傷は痛まない?」

稲崎秀信は声を潜めて尋ね、柔らかいクッションを差し出した。

「ええ、平気です」

西園寺琴音はかぶりを振ると、体勢を少し整えて窓の外へと視線を逃がした。稲崎秀信に、心の奥底にある揺らぎを悟られたくなかったからだ。

だが、その静寂はすぐに打ち破られた。

機内後方から、聞き覚えのある騒がしい気配が近づいてくる。

西園寺琴音は反射的に振り返り、その瞬間、瞳孔を収縮させた。

陸奥司が七海を抱きかかえ、その後ろに二階堂瑠璃を従えて、こちらに向かって歩いてくるところだったのだ。

彼らの座席は、あろうことか西園寺琴音と稲崎秀信の斜め後ろだった。

陸奥司もま...

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