第177章 マンションに戻る

「戻るつもりはないわ」

 西園寺琴音は、はっきりとそう告げた。

 だが、すぐに言葉を継ぎ、妥協案を提示する。

「でも、真夏はしばらく連れて行く。あの子は私の娘よ。二人きりで過ごして、きちんと世話をしてあげたいの。これは母親として最低限の権利だわ。もちろん、あなたの面会を拒むつもりはない。ただ、環境を変えて……あの子の気分転換もさせてあげたいのよ」

「ママ……」

 真夏が小さな顔を上げ、大きな瞳に切実な光を宿して呟く。

「私、ママと一緒にいたい……」

 陸奥司の眉間に、深い皺が刻まれた。

 娘が西園寺琴音に向けるその眼差し――そこにあるのは、不在がちだった父親である彼には決して...

ログインして続きを読む