第232章 記憶喪失

稲崎秀信は淡々とした眼差しを彼に向けた。その瞳は凪いでいたが、陸奥司には、勝者が敗者を嘲笑う無言の優越感のように感じられた。

陸奥司は風邪薬の入った袋を握りしめる手に力を込めた。指の関節が白く浮き出るほどに。

今すぐにでも衝動を爆発させ、あの目障りな男を彼女のそばから引き剥がし、事の次第を問いただしてやりたい。

だが、西園寺琴音はすでに病床の脇にある椅子に座り直していた。背中を小さく丸め、傷だらけの母の手を両手で包み込むように握りしめている。扉の方に向けられた横顔は、泣き腫らした目のまま、昏睡状態の母親を案じて凝視していた。

それは、彼が今まで一度も見たことのない表情だった。

離婚...

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