第272章 えこひいき

車が陸奥家の本邸を囲む豪奢なアイアンゲートの前に停まった時、空はすでに薄暗くなっていた。

稲崎秀信はエンジンを切り、助手席の西園寺琴音へと視線を向けた。

「俺は入らないでおくよ。邪魔になってもいけないし、君一人で対処した方がいいだろう。何かあれば、いつでも電話してくれ」

西園寺琴音は感謝の意を込めて頷いた。

「ええ、ありがとう」

「気にするな」

稲崎秀信は微笑んだ。「行っておいで。ここで待っているから」

西園寺琴音は車を降り、見慣れた邸宅へと歩みを進めた。

呼び鈴を鳴らす。

しばらくして、重厚な扉が開いた。

だが、玄関に立っていたのはシッターではなく、二階堂瑠璃だった。

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