第89章 熱が出た?

彼女は彼の後について、煌々と明かりの灯るリビングへと足を踏み入れた。

鼻孔をくすぐる懐かしい香り。頭上で輝くクリスタルのシャンデリア、高価なペルシャ絨毯、そしてかつて彼女がこだわり抜いて配置したアンティークの数々……。

それらはすべて、かつて彼女が心血を注いで守り抜いた『家』そのものだった。

ないがしろにされていた日々の記憶が一気にフラッシュバックし、瞬時に呼吸が浅くなる。

西園寺琴音は反射的に足を止め、眉間に深い皺を刻んだ。無意識のうちに負傷した腕を庇うように押さえ、踵を返してドアへと向かう。

ここには、一秒たりとも留まりたくなかった。

「どこへ行くつもりだ? ここも君の家だろ...

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