第6章

 婚約披露宴の前夜、黒沢大和が正式に挨拶へ訪れた。

「雅子さんは夏海ちゃんの親戚みたいなものだし、小さい頃から実の娘のように可愛がってくれていたからね」

 夕食を終えると、母は私と大和を世田谷にある一ノ瀬家へと送り出した。年長者への挨拶は欠かせないというわけだ。

「あらあら、いらっしゃい」

 雅子夫人は満面の笑みを浮かべ、大和の手を引いて歓待してくれた。

 ふと屋外の日本庭園に目をやる。あの古い桜の木の根元には、まだ私が幼い頃に一ノ瀬蓮と一緒に作った風車が置かれていた。もう風雨に晒され、元の色など判別できないほど朽ちている。

 視線を戻そうとしたその時、二階の階段から降りてきた一...

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