第362章「求めても得られないものは、すぐに他人の手の届くところにある」

ロウ邸

翌朝、カートは徹夜仕事を終え、重い足取りで玄関をくぐった。疲れ切った身体が、ソファで眠る人影を見つけた瞬間、ぴたりと固まる。

エミリー?

ここで一晩過ごしたのか?

カートは足音を殺し、夢にまでまとわりついてきたその輪郭へ、ゆっくりと近づいた。

よほど疲れているのだろう。いつもなら警戒心の強い彼女が、彼が間近に寄ってもなお深い眠りの底に沈んだまま、呼吸だけが規則正しく、乱れない。

「エミリー……」

カートは彼女の名を囁いた。手が彼女の顔の上で止まり、指先が肌の上の空気をなぞる。そうして、意図したのか無意識だったのか、指先はふと、わずかに開いた唇のすぐ上に落ち着いた。

カー...

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