第68話彼女はおなじみの香りがする

エメラルド・シティの名家のなかでも、トーマス家の邸宅の中庭はひときわ広かった。

ジェームズの祖父は、生前、庭いじりに情熱を注いでいたという。

いまは冷たく水気を帯びた月明かりの下で、白い夜咲きの花が闇のなかにひっそりと綻び、誰にも気づかれずに咲いている。

キアナは以前、この花がジェームズの祖父のお気に入りだと教えてくれた。

エミリーは月光に照らされて美しく咲く花を見つめ、ぼんやりと思いに沈んでいた。

だが、その静けさを鋭いひと言が切り裂いた。

「おい、そこで突っ立って何してる」

車椅子に座ったジェームズが苛立たしげに言った。

エミリーは目をぐるりと回す。「トーマスさん、こんな真...

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