チャプター 4
フレイヤ視点
浅い眠りの底から、ノックの音が私を現実に引き戻した。ガンガンと痛む頭にその音が響く。昨夜、何時間も泣き明かしたという残酷な名残だ。カーテン越しに弱い朝の光が差し込む中、私は自分がどこにいるのか確かめようともがく。喉の奥から馴染みのある吐き気がこみ上げてくる――毎日の相棒となってしまった「つわり」だ。私はそれを必死に飲み込んだ。
「ちょっと待って」
涙で枯れた声が、しわがれて喉から絞り出された。
私の内側で、エンバーが不安げに身じろぎした。妊娠がわかって以来、私の狼はずっと過保護になっていて、今も私の動揺を感じ取り、落ち着かなく歩き回っている。
「どうぞ」
ようやく声をかけた。オリビアがお茶を持ってきてくれたか、あるいは夕食に手をつけなかったことを優しくたしなめに来たのだと思ったからだ。
だが、ドアが開いた瞬間、私は凍りついた。入り口に立っていたのはイーサンだった。廊下の明かりを背に、その逞しいシルエットが浮かび上がっている。三年間の契約結婚生活の中で、彼が私の寝室に入ってきたことは一度も――ただの一度もなかった。この部屋は私の聖域であり、彼の威圧的な気配を感じることなく、ありのままの自分でいられる唯一の場所だったのだ。
自分の姿を強烈に意識し、心臓が痛いほど高鳴った。目は泣き腫らし、髪はもつれてぐしゃぐしゃ。身につけているのは薄いシルクのナイトガウンだけで、急に自分が無防備で頼りなく感じられた。私は頬を熱くしながら、毛布を顎まで引き上げた。
「イーサン」私は平静を装おうと必死になりながら、どうにか声を絞り出した。「……戻っていたのね」
彼は私の領域に踏み込むのをためらうかのように、入り口に留まっていた。朝の光が彼の横顔を捉え、鋭い顔の輪郭と、顎を覆う無精髭を際立たせている。着ているのは昨日の服のままで、着替えることなく夜を過ごしたせいで皺が寄っていた。そして、彼本来の松と雨の香りに混じって、別の匂いが漂ってきた――繊細だが、意図的につけられた女性物の香水。ライリーの香りだ。
意識の奥底でエンバーが低く唸り声を上げ、急に警戒心を露わにして敵意を向けた。私の狼は、私が認めたくない脅威をはっきりと認識していたのだ。
「手短に済ませる」イーサンは言った。その声は突き放すようで、事務的だった。
ついに彼が一歩踏み出した。その流れるような優雅な動きは、彼がただの人間ではなく、捕食者たるアルファであることを思い出させる。イーサンは慎重な手つきでマニラ封筒をベッドサイドのテーブルに置いた。
「ライリーが戻ってきた」前置きなしに彼は言った。「この茶番を終わらせる時が来たんだ」
「ライリーが戻ってきた」――その言葉に、血管の中の血液が凍りついた。もちろん、彼女は戻ってきたのだ。ここ数日、群れ全体が彼女の凱旋の話題で持ちきりだったのだから。ライリー・ヘイズ。領土交渉の最中、危険を顧みずイーサンの前に身を投げ出したとされる、勇敢なる純血種の狼。彼を守って「重傷」を負い、一時的に変化(シフト)する能力を失った悲劇のヒロイン。苦々しい事実を知っている私の胃が、きゅっと縮み上がった。
ライリー――私よりたった半年年下の異母妹。彼女は父の裏切りの生きた証拠だ。母が私を身籠っている間に、父は愛人を妊娠させていたのだ。八年間、父はライリーと彼女の母親エレナを隠し通し、汚れた秘密として扱ってきた。そして、私の狼であるエンバーがついに覚醒し、制御を学ぶために私がフィアスクロー・アカデミーへ発たねばならなくなった時、彼はその好機を逃さなかった。
彼はライリーとエレナを家に招き入れ、まるで最初からそこに居場所があったかのように住まわせたのだ。母ベラはその屈辱に耐えられなかった。夏休みに私が帰省した時には、母は病院のベッドに横たわり、反応もなく、自ら命を絶とうとした結果、自分の体の中に閉じ込められてしまっていた。医者はそれを植物状態と呼んだ。だが私にはわかっていた――あれは、父が母に負わせた最後の一撃だったのだと。
私は異母妹の正体を誰よりもよく知っている。彼女は骨の髄まで利己的で、あらゆる行動が計算尽くなのだ。私が共に育ったライリーは、誰かのために爪一枚折るリスクさえ冒さないような女だ。ましてや命などかけるはずがない。だが、誰が私の言葉を信じるだろう? 群れに帰還した英雄を疑う、望まれない混血の私など。対比はあまりにも完璧すぎた。アルファのために己を犠牲にしたライリーと、私が貢献したものといえば……つがいの契約書への都合のいいサインだけなのだから。
エンバーは悲痛な声を上げ、さきほどの攻撃性は混乱と恐怖へと変わっていた。私の内なる狼には理解できなかったのだ。私たちのアルファであり、運命のつがい(メイト)である彼が、これほどあっさりと絆を切り捨てられるなんて。彼女は私の意識にすがりつき、安心を求めてきたが、私にはそれを与えるすべもなかった。私自身の心が鋭く尖った破片となって砕け散り、内側から私を切り刻んでいたからだ。
「書類は簡潔だ」彼はフォルダの方を指し示しながら続けた。その声色は、四半期報告や群れの領土争いについて語る時と何ら変わらなかった。「署名が済み次第、我々の結合契約は正式に解消されることになる」
私の手は無意識のうちに下腹部へと伸びていた。自分でも制御できない、子を守ろうとする反射的な仕草だった。私の中で、エンバーが怒りと絶望の入り混じった叫びを上げる。
「そんな……これでおしまいなの?」私は声を震わせまいと必死に堪えながら、かろうじて囁いた。
イーサンの銀灰色の瞳が私の顔を捉えたが、その光は冷たく、どこか遠い。「この取り決めはあくまで一時的なものだったんだ、フレイヤ。君も分かっていただろう」
もちろん分かっていた。私たちの契約は最初からはっきりしていたのだ。単なるビジネスライクな取り決め、それ以上の何物でもない。イーサンはアルファとしての地位を盤石にするためにつがいを必要とし、私は母の治療費を必要としていた。期間は四年。私たちはそう合意したはずだった。感情的なもつれは一切なし。契約上の義務以上の期待も抱かないこと。
だが、あの夜があった。私たちの間にあった壁が崩れ去った、あの一夜が。あの夜がすべてを変えてしまったのだ――少なくとも、私にとっては。
「分かっているわ」ようやく私は言葉を絞り出した。「でも、身の振り方を考える時間が欲しいの。これからどこへ行くか、決めなくちゃいけないから」
私は思考を巡らせ、時間を稼ごうとした。私のお腹の中で育っている命――イーサンの子供について考えなければならなかった。これからどうするか、どこへ向かうべきか、計画を立てる必要があったのだ。混血の人狼として、私はこれまでどこにも本当の居場所を持てなかった。人間の血が混じっているせいで半端者扱いされた父の群れでも、単なるアルファの「一時的な妻」として扱われるこのムーンシェイドの領土でも。
イーサンの表情に何かがよぎった――ほんの一瞬のためらい。私の見間違いだったのかもしれない。彼は短く頷いた。
「もちろんだ。君の母親の医療費は合意通り負担し続ける」彼は言葉を切り、そして付け加えた。「それと、第十二条に規定されている通り、署名時には解決金も支払われる」
彼は、この取引において私が求めているのは母の治療費だけだと思っているのだろう。だが実際には、超自然的な存在たちのために精巧な銀細工を作り出す謎の職人が私――アルファに望まれぬつがいであるこの私だということを知る者はほとんどいない。一年前、「ローズ・ウィンター」の名は裏の世界で名声を得ており、その収入はイーサンの経済的支援に頼らずとも、母の治療費を賄うのに十分な額に達していた。
私がこれまで契約の早期終了を提案しなかったのは、時が経ち、近くにいれば、いつか私たちの間に本物の愛が芽生えるかもしれないと愚かにも期待していたからだ。昨夜、甲斐甲斐しく夕食の準備をした自分が、今では哀れなほど滑稽に思える。それはイーサンの無関心という冷徹な現実の前に砕け散った、子供じみた幻想に過ぎなかったのだ。
「ありがとう」
口にしたその言葉は、まるで灰のように味気なく、乾いた響きを残した。
ドアがカチャリと音を立てて閉まった瞬間、頬を涙が伝い落ちた。拭う気にもなれなかった。私の手は、まだ平らな腹部へ、そこで息づく小さな命へと触れた――すべてを複雑にしてしまうであろう、小さな命へ。
ナイトスタンドの上には、契約書の入ったフォルダがまるで時限爆弾のように置かれていた。三年前、母を救いたい一心で、私は迷うことなくその書類にサインした。だが今は、イーサンとの唯一の繋がりを断ち切る冷淡な法的文言を直視する自信がなかった。
控えめなノックの音が、私の思考を遮った。
「ブラックウッド様?」オリビアの柔らかな声がドア越しに響く。「階下にて、外部からの通信が入っております」
私は急いで涙を拭い、無理やり声に落ち着きを取り戻させた。「ありがとう、オリビア。すぐに行くわ」
階下の通信室に入ると、画面いっぱいにマーカスの怒りに満ちた顔が映し出されていた。
「フレイヤ、俺の連絡を拒否するとは、いい度胸だな!」彼は荒々しく吠えた。
