第2章
バスルームのドアが開くと同時に、もわりと白い湯気が溢れ出す。腰にバスタオルを一巻いただけの修治が、そこから姿を現した。濡れた髪が額に張り付き、水滴が滴り落ちている。
彼の視線が、私を捉えた——床にへたり込み、スカートを乱し、異常なほどの紅潮を浮かべた私を。そして何より、股間に手を這わせたまま固まっている、この無様な姿を。
死のような静寂が落ちる。
だが、私は見てしまった。凪のように静かだった彼の灰色の瞳に、瞬間、暗い炎が灯るのを。
「……酒井さん?」
修治の低く掠れた声は、危険な響きを孕んで鼓膜を震わせる。
私は弾かれたように手を引っ込め、露わになった太腿をスカートの裾で隠そうともがく。煮えたぎるマグマのような羞恥が頭頂まで駆け上がるが、身体の奥底に巣食う空虚は、彼の視線に晒されたことで、より激しく疼き始めていた。
「わ、私は……ただ……」
震える声は無残なほど掠れ、まともな言い訳ひとつ紡ぎ出せない。
彼は退くどころか、一歩踏み出してきた。巨大な裸足がカーペットを踏みしめ、音もなく迫ってくる。
修治が膝を折り、視線の高さを合わせた。ボディソープの清潔な香りと、彼特有の雄々しいムスクの匂いが混じり合い、逃げ場のない網のように私を包み込む。
「具合でも悪いのか」
問う言葉に、疑問の色は薄い。彼は急に手を伸ばすと、その大きく無骨な掌を、有無を言わせず私の額に押し当てた。
ドクン——
それは単なる接触ではない。ガソリンの詰まったドラム缶に種火を投げ込むようなものだった。
乾燥した温かい掌。分厚いマメ。そのザラついた皮膚が額の柔らかな肌を擦った瞬間、電流が背骨を突き抜け、下腹部を直撃した。
「んぅ……っ」
幼獣の鳴き声にも似た、ごく微かな声が漏れるのを止められなかった。
修治の動きが一瞬強張る。だが、手は離れない。それどころか、親指が意味ありげに私のこめかみをゆっくりと撫で、頬を滑り落ちて、小刻みに震える唇へと這い寄った。
「熱はないな、綾子」
初めて呼ばれた名前。いつもの「酒井さん」ではないその響きには、奇妙な狎れあいが滲んでいる。
「だが、震えてる」
彼の瞳が幽玄な色を帯び、視線がゆっくりと下へ——固く閉じた両足の間へと落ちていく。そこには、布地を透かした湿り気が、カーペットに小さな染みを作っていた。
「手伝いが必要か?」
その言葉は、気遣いのようでいて、どこか淫靡な誘いを含んでいた。
悲鳴を上げて彼を追い出すか、バスルームに逃げ込んで鍵をかけるべきだ——理性はそう叫んでいる。けれど身体は正直に首を横に振り、次の瞬間にはコクりと頷いていた。
「く、薬が……薬を持ってなくて……」
支離滅裂な弁解とともに、涙が溢れ出す。
「お願い、見ないで……」
「こっちを見ろ」
修治の声が不意に鋭くなる。それは氷上で攻撃を指揮する時の、絶対的な命令権を持つ者の声色だった。
私は抗えず、顔を上げさせられる。
「綾子が何を欲しがってるか、わかってる」
そう言った彼からは、もはや敬意ある同僚の仮面は剥ぎ取られていた。彼は私の足首を乱暴に掴むと、いとも容易く自分の方へと引きずり寄せた。
背中がベッドの縁にぶつかる。脚を強引に割られ、その間に彼が割り込んでくる。バスタオルの下の雄大な膨らみが太腿の内側に押し当てられ、石のように硬く脈打っているのがわかった。
「修治、だめ……っ、私たちは同僚……」
最後の抵抗として、鉄板のように硬い彼の胸に手を突っ張った。
「今は違う」
低く、有無を言わせぬ覇気を孕んだ警告。彼は片手で私の暴れる両手首を易々と捕らえて頭上で縫い留めると、空いた手で躊躇なくスカートの中へ侵入した。
拒絶したいのに、身体は裏切り者のように言うことを聞かない。
薄いタコのある無骨な指先が、ぐしゃぐしゃに濡れそぼった秘所に触れた瞬間、脳内で何かが「ブツン」と焼き切れた。理性も防壁も、大槌で叩き割られたガラスのように粉々に砕け散る。
その指使いは恐ろしいほど巧みだった。単に触れるだけではない。まるで宝の地図を読み解くかのように、急所を的確に突かれ、頭の芯まで痺れが走る。
「あぁ……っ、は、ぁ……!」
歯を食いしばり、首が千切れそうなほど仰け反る。思考は白濁し、ただ身体が勝手に熱を帯びていく感覚だけがあった。
自分がどれほど浅ましい姿を晒しているかはわかっている。それでも止められない。羞恥と快楽がないまぜになり、発狂しそうなほど追い詰められていく。
「酷く濡れてるじゃないか、マネージャーさん」
耳元で低い笑い声が響き、熱い吐息が首筋にかかってゾクリと震える。
揶揄を含んだ口調とは裏腹に、指の動きは慈悲のかけらもなく、ゆっくりと、深く、抉るように私を責め立てる。
「言ってみろよ。普段、更衣室で俺たちを見てる時も……ずっとこの日を夢見てたんじゃないのか?」
