第139章

水原茜の胸に、さらに荒唐無稽な感覚が湧き上がった。

自分は――狂人相手に、あれほど長い時間を費やして言い争っていたのだ。

しかも、その狂人の野心は、せいぜいノアを呑み込む程度だと……危うく本気で思い込みかけていた。

水原茜は息が詰まり、もう一度鈴野和夫を罵ってやろうとした、その瞬間。

ヘッドセットの向こうで、エバの声がやけに鮮明に響いた。

「皆さん、落ち着いてください。証拠はすでに保存しています」

その一言で、水原茜の理性が引き戻される。

彼女は険のある表情を引っ込めた。

「そうね……私たちは、同じ縄に繋がれた虫ってわけだし」

流れ作業の工場へ一度視線を走らせ、続けて実験室...

ログインして続きを読む