第52章

オフィスでは誰ひとり口を開かなかった。聞こえるのは、資料をめくる紙の擦れる音だけ――それが余計に、落ち着かない焦燥を滲ませる。

一秒一秒が不自然なほど引き伸ばされ、そこにいる全員の心臓をじわじわ締めつけた。

やがて、どれほど待ったのかも分からない頃。雨村雅子がようやく席を立ち、水原茜の前へ歩み寄る。

手にしているのは、刷りたての報告書。

財務部の潔白を証明するものでもあり、場合によっては誰かを牢に送り込む「決定的な証拠」にもなり得る紙束だった。

「水原様。直近半年分、ノアグループが締結した契約と帳簿をすべて精査しました。対象は113件、入出金の記録は約3,000件です」

水原茜は...

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