第75章

夏の夜。そよ風が肌を撫で、潮の生臭い匂いが空気に溶けている。水原茜は浜原恵也に手を引かれ、ネオンのきらめく通りをすり抜けて歩いた。ふいに、高校の頃に戻ったみたいだと思う。友だちと授業をサボって、ただ目的もなく街をぶらついた――あの感覚。

茜の家は海沿いのオーシャンビューで、海岸までは通りを二本抜ければ着く。

夜の浜辺には街灯だけが淡い黄褐色の輪を落とし、浜原恵也は茜を海の近く、ひときわ暗い場所まで連れていった。耳に残るのは、ざあっ、ざあっ、と波が砂を叩く音だけ。

H市に来て、もう三年以上。

茜は森田浩介と一度も海に来たことがなかった。まして、景色をゆっくり眺めるなんて。

森田浩介は...

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