第88章

広瀬仁美は反射的に餌取美紀の手をぎゅっと握りしめた。声にも、隠しきれない焦りが滲む。

「モールスのほうは動けるの? あっちは最近、締め付けが厳しいって聞いたわ。こっちの件で足を引っ張ったりしたら……」

餌取美紀は仁美の手の甲を、ぽん、ぽんと二度だけ叩く。困ったように息を吐いた。

「私たち、結婚してから子どもがいなかったでしょう。あの人は浜原恵也を実の息子みたいに育ててきたの。いずれ私たちの代を継がせるつもりよ」

言いながら、視線が一瞬だけ沈む。

「今はあなたの家の問題だけじゃない。うちの息子がICUにいるのよ」

「私が言わなくても、あの人は来るわ。茜はもう、うちの嫁。そんな子が外...

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