第3章

目を開けた瞬間、まるでフル充電されたかのように活力がみなぎっていた。

ホテルのカーテン越しに淡い朝日が差し込んでいる。身を起こしてみると、信じられないほど体が軽い。

こんなにすっきりとした気分は、本当に久しぶりだ。

ぐっと伸びをして、ふと視界の端に映った影に目をやる。ソファの上で、誰かが丸まっていた。

古崎俊だ。

目の下にはくっきりとした隈があり、全身から言いようのない憔悴感が漂っている。

「どうしてここに?」

私は呆気にとられた。彼は顔を上げた。その美しい瞳は充血し、どこか恨めしげに私を見据えている。

「覚えてないのか?」

「覚えてないって、何を?」

記憶を必死に手繰り寄せるが、脳裏に浮かぶのは中村社長の脂ぎった顔だけだ。

「確か飲みすぎて……それで、あなたが送ってくれたの?」

古崎俊は数秒沈黙し、喉仏を動かした。

「……ああ」

「それはどうもありがとう!」

私はベッドから飛び降りる。

「どうしてベッドで寝なかったの? ソファじゃ体が痛くなるでしょう」

頭をポリポリと掻く。何かがおかしい気もするが、今は仕事が最優先だ。

「私、もう仕事行かなきゃ。あなたも早く帰って休んでね」

私を見る彼の目が、さらに恨めしさを増した。まるで薄情者を見るような目だ。

なによ、その顔。

私が何か悪いことでもしたって言うの?

まさか、そんなわけないし。

三日後。我が家は再び災害現場のような惨状に戻っていた。

私は迷わず古崎俊に電話をかけた。

「もしもし、古崎俊? また来てくれない?」

電話の向こうで少し沈黙が続き、「……わかった」と返事があった。

一時間後、チャイムが鳴る。

ドアを開けると、そこには古崎俊が立っていた。

今日の彼は仕立ての良い黒いシャツを身にまとい、袖口を軽くまくって筋の通った前腕を覗かせている。

逆光を浴びるその姿からは、禁欲的かつ危険な香りが漂っていた。

相変わらずイケメンだ。

思わず心臓の鼓動が早くなる。

「どうぞ、入って」

体をずらして道を開ける。中に入った彼は、不意に拳を口元に当てて咳き込んだ。どこか弱っているようだ。

「大丈夫?」

古崎俊の瞳が一瞬輝き、磁石のように人を惹きつける低音で答えた。

「ああ、平気だ」

「それならよかった」

私は即座に雑巾を彼の手のひらに乗せた。

「じゃ、よろしくね」

「……」

彼は雑巾を受け取り、作業を始めた。

やはり疲れが見える。

まさか病気だろうか?

そう尋ねようとした矢先、仕事のグループチャットが鳴った。上司からアパレルブランドの広告案件について進捗確認だ。

私はベランダで返信に没頭し、彼が何をしているかなど気にも留めなかった。

掃除の音がやけに大きくなった。

物を動かす音、置く音、片付ける音。すべてが騒々しい。

私は少し頭を抱えながら彼の方を振り向く。

すると、彼の肌が異常に赤いことに気づいた。耳なんて、まるで茹でたニンジンのように真っ赤だ。

「古崎俊?」

「具合でも悪いの?」

今度は「平気だ」とは言わなかった。彼は私の目をじっと見つめ、こう返した。

「どうやら、あまり良くないみたいだ」

「浦山市子」

初めてフルネームで呼ばれた。

彼は近づいてきて、切実な声で言う。

「俺は今、すごく具合が悪いんだ」

近づくだけで、彼から発せられる熱気を感じる。なんてこった、これは確実に熱がある。

病気なのに仕事に来るなんて、どれだけこの仕事が好きなの。

これぞまさに、家政婦の鑑!

「安心して、私に経験があるから」

「経験?」

古崎俊の瞳の奥に危うい陰りが走り、すぐに消えた。

「……じゃあ、俺を助けてくれ」

「任せて。前回助けてもらったし、今度は私があなたを助ける番よ」

私は胸を叩いて請け負った。

そして、彼の期待に満ちた視線を背に、一杯の氷水を持ってきた。

暑い日には、氷水で体を冷やすのが一番だ。

しかし、古崎俊の表情は一瞬にして凍りついた。

「いらない」

まるで子供のような口調だ。

大人だって、病気の時は理性を欠いた反応をしてしまうものだ。よくあることだ。

「大丈夫、まだ手はあるから」

私は自信満々に宣言した。

古崎俊は驚愕の表情で私を見つめる。その声は、期待と熱で掠れていた。

「……本気か?」

私は力強く頷き、自信たっぷりに言い放った。

「行きましょう、お風呂場へ!」

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