サキュバスさんの犬系彼氏

サキュバスさんの犬系彼氏

渡り雨 · 完結 · 12.0k 文字

1.2k
トレンド
1.2k
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

私は純血じゃないサキュバス。

仕事に打ち込むことで、本能の欲望を抑えてきた。

そんなある日、姉が一人の家政夫を紹介してきた。

彼は自分で首輪をつけると、リードを私の手に渡し、こう言った。

「ご主人様」
「僕はあなたのものです」

今回は、もう欲望を抑えられそうにない。

チャプター 1

私の名は浦山市子。ハーフサキュバスだ。

父は人間、母は純血のサキュバス。

その血筋のせいで、私は幼い頃から二つの世界の狭間で生きてきた。

一族からは欲望に溺れる快楽を知らない半端者と疎まれ、人間社会からは異類として警戒される日々。

欲望に支配されたくない私は、父の言葉に従うことにした。

「仕事こそが最も精力を消耗する営みだ。たとえサキュバスであってもな」

働き続けてさえいれば、本能的な欲望に振り回される時間も気力もなくなる。

だから、他の兄弟姉妹たちが夜の街やバーで欲望に耽溺している間、私は広告代理店のデザイナーという道を選んだ。

ネットにはこう書いてあった。

『下請け企業のデザイナーに必要な体力と精神力は、爆発寸前!』

サキュバスの精力は人間より遥かに強い。だからこそ、この仕事は私にとって天職だと思えたのだ!

平日は明け方まで残業、週末はプロジェクトに追われ、食事さえデリバリーで済ませる毎日。

その効果は覿面だった。

サキュバスとしての本能は完全に抑え込まれ、トレードマークである魅了のフェロモンさえ、哀れなほど薄くなっている。

唯一の副作用といえば、自宅が惨状と化したことか。

積み上げられたデリバリーの空き容器、ソファに散乱した衣服、床に積もる埃。

潔癖なサキュバス族にとって、これは恥辱以外の何物でもない。

私は一族の中で最も可愛がってくれる姉に連絡を取った。

姉は私が人生を謳歌していないと嘆きつつも、有能な家政夫を紹介してくれた。

「妹よ、すごくいい家政夫だからね。無駄にしちゃダメよ?」

その日の午後、チャイムが鳴った。

疲労困憊の体を引きずってドアを開けると、そこには長身の美青年が立っていた。

形の良い桃花眼に、思わず目が眩む。

その瞳は少し充血していて、まるで徹夜明けのようだが、どこか抑圧された渇望が滲み出ていた。

「浦山さん、古崎俊です」

低く、抑制の効いた声だ。

私は呆気にとられた。

この容姿で家政夫? 芸能界に行ったほうが稼げるんじゃないの?

呆けていると、彼が突然顔を寄せてきた。首筋にかかる灼熱の吐息に、心臓が早鐘を打つ。

しまった。

これは姉さんが私を誘惑するために送り込んだ刺客か!

どうりで、こんなイケメンがただの掃除夫なわけがない。

思わず半歩下がったが、背中がドアにぶつかり逃げ場を失う。

彼の長身がさらに迫ってくる。

ふわりと、雄の匂いが押し寄せてきた。

それは街中ですれ違う男や、姉に騙されて一度だけ連れて行かれたホストクラブの男たちとは違う香り。

シダーウッドのような清涼感の中に、どこか心を掻きむしるような甘さが混じっている。

抑え込んでいた本能が、ふと鎌首をもたげる。

伸び始めた小さな牙を舌先で確認しながら、私は古崎の唇を見つめた。

キスしやすそうだな、と。

彼、さっき入ってくる時に笑った気がする。

だとしたら、間違いなく私を誘惑している!

私は意を決し、自分から顔を寄せた。

だが相手は瞬時に顔を背け、室内へと視線を移した。喉仏を動かしながら問う。

「どうして顔が赤いんです? 家政夫を頼んだんですよね。どこから片付けましょうか」

本当にただの家政夫?

姉さんが手配した誘惑用の男じゃないの!?

頭の中がピンク色の邪念で埋め尽くされていた私は、恥ずかしさのあまり自室へと逃げ帰った。

なんてことだ。

他人を勝手に男娼扱いするなんて!

呼吸を整えるが、尾てい骨の違和感が頭を悩ませる。

尻尾が飛び出しそうだ!

部屋に籠もり、怒涛の勢いで広告案を二つ仕上げてから、ようやくリビングへ出た。

リビングは半分ほど片付いている。

だが、古崎の姿がない。

帰ったのか?

電話をしようとした矢先、浴室から古崎の声がした。

「浦山さん、すみません。ちょっとズボンを汚してしまって、シャワーをお借りしています」

「安心してください、後で綺麗にしますから」

シャワーだと?

腐っても私はサキュバスだぞ、そんなあからさまな誘導に引っかかるか!

思考を遮るように、彼は使い捨てのバスタオルがあるかと尋ねてきた。

私は慌ててタオルを取りに行く。

浴室のドアがわずかに開き、骨張った長い指が伸びてきた。腕には水滴が光っている。

中からは、微かな荒い息遣いが漏れていた。

どうやら先ほどの掃除は相当な重労働だったらしい。でなければ、シャワーを浴びるだけであんなに疲れるはずがない。

私の脳内の不純な妄想は、瞬時に罪悪感へと塗り替えられた。

「安心して、追加料金を払うから」

タオルを受け取る際、彼の手が私の掌をそっと撫でた。

「追加料金ということは、追加のサービスが必要ですか?」

「ああっ!」

私は叫んだ。まだ終わっていない仕事を思い出したのだ!

雑念を振り払うために急ぎの案件を片付けた後、来週分の準備に取り掛かっていたのだった!

「先に仕事に戻るから、掃除は適当に進めておいて!」

浴室の向こうで、長い沈黙が流れた気がした。

私は寝室へ戻る。

残業だ! 仕事だ!

新しい案件は一筋縄ではいかない。

大手アダルトグッズメーカーのクリエイティブだ。

サキュバスの私ならお手の物のはずだが、残念ながらそうはいかない。

すぐに思考が煮詰まってしまった。

私はサキュバスの名折れだ。

ソファに凭れて小休止していると、不意にドアが開いた。

古崎がエプロンとズボンだけの姿で入ってくる。

露わになった鎖骨と筋肉が、エプロンの布地から溢れ出しそうだ。

「浦山さん、寝室の掃除を始めます」

彼は雑巾を手にクローゼットを拭き、私のそばへ歩み寄ると、デスクの裏側を拭くためにしゃがみ込んだ。

「浦山さん、少し退いて」

半身を傾けた彼の胸板が、私の体に触れんばかりに迫る。

その筋肉を見た瞬間、私は歓喜の声を上げた。

「古崎さん、それ最高じゃない!」

古崎の眼差しが熱を帯び、なぜかエプロンの紐がひとりでに解ける。

私はすぐさま古崎を立たせ、カーテンと窓を全開にした。太陽の光が彼の肉体に降り注ぐ。

彼は顔色を変え、自分に言い聞かせるように呟く。

「浦山さん、窓を開けるのが趣味で?」

私は元気よく答えた。

「そのほうがよく見えるから!」

「……」

古崎は何かを悟ったような、諦めたような顔をした。

私は彼に直立不動で肉体を晒すよう命じ、再びPCに向かって猛然とキーボードを叩き始めた。

二十分後。

古崎は不審そうに尋ねた。

「浦山さん、まだ始めないんですか?」

私は不思議そうに答える。

「もう始まってるけど?」

「……始まってる?」

彼は疑念に満ちた顔だ。

「ええ。アダルトグッズの広告デザインで行き詰まってたんだけど、あなたが素晴らしいモデルになってくれたおかげで助かったわ。本当に来てくれてよかった!」

古崎のおかげだ。

「……僕に、ただモデルをしてほしかっただけ?」

「そうよ。すごくいい仕事をしてくれたから、さらに特別手当を出すわ!」

私は真剣な眼差しでそう告げた。

最新チャプター

おすすめ 😍

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

373.8k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
離婚後、奥さんのマスクが外れた

離婚後、奥さんのマスクが外れた

200.7k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
結婚して2年後、佐藤悟は突然離婚を申し立てた。
彼は言った。「彼女が戻ってきた。離婚しよう。君が欲しいものは何でもあげる。」
結婚して2年後、彼女はもはや彼が自分を愛していない現実を無視できなくなり、過去の関係が感情的な苦痛を引き起こすと、現在の関係に影響を与えることが明らかになった。

山本希は口論を避け、このカップルを祝福することを選び、自分の条件を提示した。
「あなたの最も高価な限定版スポーツカーが欲しい。」
「いいよ。」
「郊外の別荘も。」
「わかった。」
「結婚してからの2年間に得た数十億ドルを分け合うこと。」
「?」
裏切られた後に億万長者に甘やかされて

裏切られた後に億万長者に甘やかされて

672.5k 閲覧数 · 連載中 · FancyZ
結婚四年目、エミリーには子供がいなかった。病院での診断が彼女の人生を地獄に突き落とした。妊娠できないだって?でも、この四年間夫はほとんど家にいなかったのに、どうやって妊娠できるというの?

エミリーと億万長者の夫との結婚は契約結婚だった。彼女は努力して夫の愛を勝ち取りたいと願っていた。しかし、夫が妊婦を連れて現れた時、彼女は絶望した。家を追い出された後、路頭に迷うエミリーを謎の億万長者が拾い上げた。彼は一体誰なのか?なぜエミリーのことを知っていたのか?そしてさらに重要なことに、エミリーは妊娠していた。
君と重ねた季節

君と重ねた季節

39.5k 閲覧数 · 連載中 · りりか
二年前、彼は心に秘めた女性を救うため、やむを得ず彼女を妻に迎えた。
彼の心の中で、彼女は卑劣で恥知らずな、愛を奪った女でしかなかった。彼は自らの最も冷酷無情な一面を彼女にだけ向け、骨の髄まで憎む一方で、心に秘めた女性にはありったけの優しさを注いでいた。
それでもなお、彼女は十年間、ただ耐え忍びながら彼を愛し続けた。やがて彼女は疲れ果て、すべてを諦めようとした。だが、その時になって彼は焦りを覚える……。
彼女が彼の子をその身に宿しながら、命の危機に瀕した時、彼はようやく気づくのだ。自らの命に代えてでも守りたいと願う女性が、ずっと彼女であったことに。
離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

109.1k 閲覧数 · 連載中 · yoake
18歳の彼女は、下半身不随の御曹司と結婚する。
本来の花嫁である義理の妹の身代わりとして。

2年間、彼の人生で最も暗い時期に寄り添い続けた。
しかし――

妹の帰還により、彼らの結婚生活は揺らぎ始める。
共に過ごした日々は、妹の存在の前では何の意味も持たないのか。
離婚後つわり、社長の元夫が大変慌てた

離婚後つわり、社長の元夫が大変慌てた

150k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
三年間の隠れ婚。彼が突きつけた離婚届の理由は、初恋の人が戻ってきたから。彼女への けじめ をつけたいと。

彼女は心を殺して、署名した。

彼が初恋の相手と入籍した日、彼女は交通事故に遭い、お腹の双子の心臓は止まってしまった。

それから彼女は全ての連絡先を変え、彼の世界から完全に姿を消した。

後に噂で聞いた。彼は新婚の妻を置き去りにし、たった一人の女性を世界中で探し続けているという。

再会の日、彼は彼女を車に押し込み、跪いてこう言った。
「もう一度だけ、チャンスをください」
サヨナラ、私の完璧な家族

サヨナラ、私の完璧な家族

39k 閲覧数 · 連載中 · 星野陽菜
結婚して七年、夫の浮気が発覚した――私が命がけで産んだ双子までもが、夫の愛人の味方だった。
癌だと診断され、私が意識を失っている間に、あの人たちは私を置き去りにして、あの女とお祝いのパーティーを開いていた。
夫が、あんなに優しげな表情をするのを、私は見たことがなかった。双子が、あんなにお行儀よく振る舞うのも。――まるで、彼らこそが本物の家族で、私はただその幸せを眺める部外者のようだった。
その瞬間、私は、自分の野心を捨てて結婚と母性を選択したことを、心の底から後悔した。
だから、私は離婚届を置いて、自分の研究室に戻った。
数ヶ月後、私の画期的な研究成果が、ニュースの見出しを飾った。
夫と子供たちが、自分たちが何を失ったのかに気づいたのは、その時だった。
「俺が間違っていた――君なしでは生きていけないんだ。どうか、もう一度だけチャンスをくれないか!」夫は、そう言って私に懇願した。
「ママー、僕たちが馬鹿だったよ――ママこそが僕たちの本当の家族なんだ。お願い、許して!」双子は、そう言って泣き叫んだ。
離婚当日、元夫の叔父に市役所に連れて行かれた

離婚当日、元夫の叔父に市役所に連れて行かれた

88k 閲覧数 · 連載中 · van08
夫渕上晏仁の浮気を知った柊木玲文は、酔った勢いで晏仁の叔父渕上迅と一夜を共にしそうになった。彼女は離婚を決意するが、晏仁は深く後悔し、必死に関係を修復しようとする。その時、迅が高価なダイヤモンドリングを差し出し、「結婚してくれ」とプロポーズする。元夫の叔父からの熱烈な求婚に直面し、玲文は板挟みの状態に。彼女はどのような選択をするのか?
令嬢の私、婚約破棄からやり直します

令嬢の私、婚約破棄からやり直します

55.3k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
皆が知っていた。北野紗良は長谷川冬馬の犬のように卑しい存在で、誰もが蔑むことができる下賤な女だと。

婚約まで二年、そして結婚まで更に二年を費やした。

だが長谷川冬馬の心の中で、彼女は幼馴染の市川美咲には永遠に及ばない存在だった。

結婚式の当日、誘拐された彼女は犯される中、長谷川冬馬と市川美咲が愛を誓い合い結婚したという知らせを受け取った。

三日三晩の拷問の末、彼女の遺体は海水で腐敗していた。

そして婚約式の日に転生した彼女は、幼馴染の自傷行為に駆けつけた長谷川冬馬に一人で式に向かわされ——今度は違った。北野紗良は自分を貶めることはしない。衆人の前で婚約破棄を宣言し、爆弾発言を放った。「長谷川冬馬は性的不能です」と。

都は騒然となった。かつて彼女を見下していた長谷川冬馬は、彼女を壁に追い詰め、こう言い放った。

「北野紗良、駆け引きは止めろ」
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

141.3k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
壊れた愛

壊れた愛

48.1k 閲覧数 · 連載中 · yoake
片思いの相手と結婚して、世界一幸せな女性になれると思っていましたが、それが私の不幸の始まりだったとは思いもよりませんでした。妊娠が分かった時、夫は私との離婚を望んでいました。なんと、夫は他の女性と恋に落ちていたのです。心が砕けそうでしたが、子供を連れて別の男性と結婚することを決意しました。

しかし、私の結婚式の日、元夫が現れました。彼は私の前にひざまずいて...