第142章 つらいだろう

辻谷真耶は手にしていたグラスをテーブルへ置いた。コトン、と小さな音がする。

「言葉は選んだほうがいいわよ。下手をすると、デマを流したって言われるから」

「ご忠告、どうも」

辻谷真耶は途端に興が削がれた。目の前の女は辻谷寧々よりも頭が切れる。二言三言の挑発で取り乱すような相手じゃない。

ふと何かを思いついたのか、彼女は話題を切り替えた。

「それにしても、あなたも気の毒よね。あなたの居場所も、家族も、婚約者も……もう全部、他人のものなんだから」

身を寄せ、声をいっそう甘くする。

「つらいでしょう?」

彼女は、自分と星野星は同じ痛みを分かち合えるのだと思っていた。

もし誰かにそん...

ログインして続きを読む