第71章 ただの始まり

ちょうどそのとき、会場の後方から、聞き覚えのある――どこか気だるげな声が飛んだ。

「四千万」

静かな湖面に小石を投げ込んだみたいに、その一言が瞬く間に波紋を広げる。

ざわっ、と空気が揺れ、客たちは一斉に振り返って声の主を探した。

四千万でネックレスを買う物好きなんて、そうそういない。いったいどこの坊ちゃんだ――。

目黒千音も、思わず小さく目を見開いた。今の声、どこかで……。

だが考えを巡らせるより先に、千音は隣に座る「謎の男」の匂いに違和感を覚えた。

甘ったるく、鼻の奥にまとわりつくような異様な気配が、じわじわと入り込んでくる。

くらり。視界が揺れる。

――ここに長居するの...

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