第171章

ニコラス

俺は携帯に表示されたアントンの番号を睨みつけていた。さっさと済ませてしまいたいと思う一方で、そうしたくない自分もいた。もしあいつが気に食わないことを言ったら、俺はもう二度とあいつと口を利かなくなるだろう。自分でもそれがわかっていた。それに、そもそもあいつがカレンに何かを吹き込んだに違いないのだ。でなければ、彼女が俺の職場に押しかけてきて、会わせろと要求したり、「待ってるわ」「私たちにはまだ可能性があるはず」なんて言ってくるはずがない。そのこと自体が、俺を猛烈に腹立たせた。十分ほど携帯を睨みつけた後、俺は意を決して発信ボタンを押した。数回のコール音の後、スピーカーからアントンの声が聞...

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