第2章
その晩、私は一睡もできなかった。
瞼を閉じようとするたび、悪夢が襲ってくる――私のウェディングドレスを着たクラウディアに、ロレンツォが教会で指輪を嵌める光景だ。私は弾かれたように飛び起き、冷や汗に塗れ、暗闇の中で座り込みながら、窓の外の夜色が徐々に薄れていくのを凝視していた。
夜明けの頃、ついに限界が訪れ、窓辺に寄りかかったまま浅い眠りに落ちた。
朝八時、キッチンから食器が触れ合う微かな音が聞こえてきた。
ロレンツォが帰ってきたのだ。
まどろみ始めて二時間も経たないうちに、私は物音で目を覚ました。寝室のドアが開き、トレイを手にした彼が入ってくる。窓辺の椅子で体を丸めている私を見て、彼は足を止めた。
「ジョアンナ、ここで一晩過ごしたのか?」
彼はトレイを置き、歩み寄ってくる。彼の手が優しく私の肩に触れたとき、私は自分の首がひどく強張っていることに気がついた。
「悪夢を見たの」
低い声で答えた。それは嘘ではなかった。
ロレンツォは眉を寄せ、椅子に座る私を背後から抱きしめた。「さあ、朝食を作ったんだ。少し食べたほうがいい」
私はぎこちなく頷き、彼に手を引かれるままダイニングへと向かった。彼の手は温かく、乾いていた。五年前、初めて私を握ったときと何ら変わりない。けれどあの頃、この手は私だけのものだった。
テーブルにはイタリア式の朝食が並んでいた。パルマ産の生ハム、イチジク、焼きたてのパン、そして小さなボウルのカプチーノ。掃き出し窓から陽光が降り注ぎ、すべてが完璧に美しく見えた。
もし私が、真実を知らなければ。
ロレンツォはすぐには席に着かなかった。鞄から書類の束を取り出すと、その瞳を興奮で輝かせた。
「君へのサプライズだ」
彼は書類を私の目の前に滑らせた。一番上にあったのは、法的合意書だった。「コルヴィーノ児童慈善基金」。
「五億円だ。俺たちの子供の名前を冠するんだ」
彼は建築図面を広げながら言った。「それに、セントラルパークの小児病院もだ。最上階は小児腫瘍病棟、一階はプレイエリアに――」
私たちの、子供?
私は無意識に腹部を庇い、テーブルの下へ隠した。
「……ジョアンナ?」ロレンツォが言葉を切り、私を覗き込んだ。「震えているのか?」
そこで初めて、私は自分の目に涙が溜まっていることに気づいた。……最悪だ。
「ごめんなさい」私は深く息を吸い、無理やり笑顔を作った。「昨夜、映画を見たの。夫が外で子供を作っていたことを、妻が知る話で……」
ロレンツォの顔色が、瞬時に変わった。
彼は猛然と私の両手を握りしめた。その全身が震えている。
「ジョアンナ、俺を見てくれ」彼の声は低く沈んでいた。「そんなことは、俺たちには絶対に起こらない。永遠にだ。神に誓ってもいい」
彼は私の頬を包み込み、茶色の瞳で真っ直ぐに見つめてきた。そこには私のよく知る、あの優しさが満ちていた。
もし真実を知らなければ、私は彼を信じてしまったかもしれない。
「今日はすべての会議をキャンセルした。一日中君と過ごすよ」彼は親指で私の涙を拭った。「お義母さんの墓参りに行こう――今日は命日だろう?」
私は言葉を失った。
私自身でさえ忘れかけていたのに、彼は覚えていたなんて。
「そのあと、五番街へジュエリーを選びに行こう。明日は俺たちの結婚記念日だからね」
五周年の記念日。
そして、私が姿を消す日でもある。
「……ええ」私は小さく答えた。
ロレンツォは私の手を強く握り返した。その瞳に、微かな不安の色がよぎったのを私は見逃さなかった。
二時間後、私たちはロングアイランドのグリーンウッド墓地に到着した。
秋の陽光が百年の樹齢を誇るオークを通して、斑らな光と影を落としている。ロレンツォは車を降りると私の側へ回り込み、ドアを開けて私の手を取り、もう片方の手には大きな白薔薇の花束を抱えていた。
墓碑はシンプルな黒大理石だった。「エリザベス・ベネット、一九六五-二〇一九、愛する母」。
ロレンツォは屈み込んで白薔薇を供え、ハンカチで丁寧に墓石を拭った。
「お義母さん、ジョアンナは一生俺が守ります」彼は低い声で言った。「これは、お義母さんへの約束です」
私は墓前に跪き、涙が溢れるのを止められなかった。
お母さん、ごめんなさい。強く、勇敢であれとあなたは教えてくれた。でも今回だけは……私は逃げなきゃいけない。
ロレンツォの手が、優しく私の肩に置かれた。
この瞬間、私はすべてを彼にぶち撒けてしまいたかった。妊娠していることも、クラウディアのことも知っていると。どれほど彼を愛していて、どれほど憎んでいるか。
けれど、私は何も言わなかった。
たとえ言ったところで、何ひとつ変わらないからだ。私の涙で「ファミリーの掟」が変わることはない。マリア――コルヴィーノ家を支配するあの女――が私を逃がすはずもなく、クラウディアの腹の中にいる子供が消えるわけでもない。
だから私はただ跪き、静かに涙を流し続けた。
「ロレンツォ? ジョアンナ?」
不意に、聞き覚えのある声が響いた。私は弾かれたように顔を上げた。
駐車場に二台の黒塗りのセダンが滑り込んできていた。車から降りてきたのは、マリアとクラウディアだった。
全身の血液が、瞬時に凍りついた。
「奇遇ね」マリアは花を手に、微笑みながら近寄ってきた。「私たちもこれからマルコの墓参りに行くところだったの。まさかあなたたちもいたなんて」
偶然? コルヴィーノ家に、偶然など存在しない。
クラウディアはマリアの腕を取り、シャネルのスーツの下で微かに膨らんだ腹部を庇うようにしていた。首元の真珠のネックレスが、陽光を受けて柔らかく光っている。
「ジョアンナ、あなたは本当に幸せ者ね」彼女は私を見つめ、口元に優しい笑みを浮かべた。「ロレンツォがこんなに献身的に付き添ってくれるなんて」
私は引きつった笑みを貼り付けた。ロレンツォが私を見たが、私は誰にも気づかれないほど微かに頷くだけに留めた。
こうして四人は連れ立って、マルコの墓地へと向かうことになった。
マルコの墓碑は母のものより遥かに巨大な黒大理石で、そこにはこう刻まれていた。「マルコ・コルヴィーノ、一九六〇-二〇一八、愛する父、そして導き手」。
マリアは花を供えると、深く溜息をついた。「マルコ、今日はクラウディアが良い知らせを持ってきたのよ」
クラウディアは腹部を愛おしげに撫で、目を潤ませた。「赤ちゃんは順調です。十四週目に入りました」
十四週。三ヶ月半近く。
私が、ロレンツォはただ仕事が忙しいだけだと思っていた頃、彼はすでにクラウディアを妊娠させていたのだ。
「マルコが生きていたら、きっと喜んだでしょうね」マリアはクラウディアの手を握り、ロレンツォに向き直った。「あなたは正しいことをしたわ、息子よ。一族の血は絶やしてはならないのです」
彼女の視線が私に突き刺さる。「ジョアンナ、あなたなら理解できるわよね? 個人の感情よりも優先されるべき責任があるということを」
ロレンツォの手が、私の手を握りしめた。彼の手のひらは汗ばんでいた。
墓地の小道を、四人が並んで歩く。マリアはクラウディアと腕を組み、ロレンツォは私と手を繋いでいる。
日差しは穏やかで、秋風が微かに冷たい。
「ロレンツォはずっと家庭を大事にしていたわ。ただ残念なことに、ジョアンナ、あなたは体が弱くて長年授からなかった」マリアの口調は、まるで天気の話でもしているかのように軽かった。「幸い、クラウディアが一族の血を繋いでくれる。ロレンツォ、クラウディアへの信託基金の手続きは済んだの?」
ロレンツォは硬い表情で頷いた。
マリアはベンチの側に腰を下ろした。「二億円の信託。それに家族の持ち株の半分を子の名義に――すべてあなたたちの結婚後に手配したものよ」
彼女は私を見た。その目には、慈悲を装った哀れみが浮かんでいた。「結局のところ、ファミリーには後継者が必要なの。ジョアンナ、理解してくれるわよね?」
二億円。株式の半分。
ロレンツォが毎晩帰宅して「愛してる」と私に囁いていたとき、彼は昼間、弁護士事務所で一族の財産を別の女の子供に譲渡する書類にサインしていたのだ。
クラウディアは優しく腹部を撫で、口元に微かな笑みを浮かべた。
「ロレンツォは毎週水曜日、検診に付き添ってくれるんです」彼女は恥じらうように、小さな声で言った。「お医者さんも、赤ちゃんの発育はとても良いって」
毎週水曜日。ロレンツォが「マルコの古い部下と食事がある」と言っていた、あの水曜日。
マリアが頷く。「ええ、ロレンツォは責任感が強いから。ヴィンセントから聞いたけれど、あなたの家に専用の寝室を用意させたんだって?」
クラウディアが頬を染めた。「はい。検診が遅くなったときは、ロレンツォは私のところに泊まっているので」
専用の寝室。お泊まり。
私はベンチに座ったまま、自分の体温が少しずつ奪われていくのを感じた。
ロレンツォの手はまだ私の手を握っていたが、その手のひらは冷や汗で濡れていた。
私は隣で俯く彼を見た。
彼は、私の視線から逃げるように目を逸らした。
