紹介
ロレンツォ・コルヴィーノ――ニューヨーク裏社会の冷酷な教父。それなのに彼は、嵐の夜に三時間も車を走らせてチェリーを買ってきてくれた。母の葬儀では私を抱きしめて夜明けまで泣いてくれた。チャリティー晩餐会で誰かが私を軽んじれば、相手を入院するまで殴りつけた。
私は自分が彼の世界の中心だと思っていた。
私立探偵のUSBメモリの中で、彼が診療所でクラウディアの妊婦健診に付き添い、彼女の妊娠した腹にキスをし、「マルコもきっと喜ぶ」と優しく囁く映像を見るまでは。
コルヴィーノ家の天秤では、亡き兄の血筋を継ぐことが、不妊の妻である私より、常に重かったのだ。
ヨットが爆発したあの夜、ニューヨークの空は炎で真っ赤に染まった。ニュースはマフィアの教父の妻が火災で命を落としたと報じた。彼は埠頭に跪き、焼け焦げた残骸を抱いて崩れ落ちた。
だが彼は知らない――
「死んだ」はずの女が、彼が知ることのなかった秘密を抱えて、大西洋の向こう側、アマルフィ海岸で、妊娠七週の腹を撫でていることを。
七ヶ月後、彼が私の新しい人生に踏み込み、私の腕の中で彼と同じ深い茶色の瞳を持つ赤ちゃんを見たとき――
暴力と恐怖で地下帝国を支配してきたこの男は、ようやく自分が何を失ったのかを理解した。
そして私は余生をかけて彼に教えてやる。ある種の裏切りには、「ごめんなさい」さえ贅沢だということを。
チャプター 1
私が意識を失ったのは、クリニックの外で、ゴッドファーザーである夫・ロレンツォがあのエコー写真をあんなにも愛おしそうに口づけするのを見た瞬間だった。
彼が見せた優しさのせいではない――写真の裏面に、彼自身の筆跡で書かれたあの一行を、ガラス越しに見てしまったからだ。
「マルコの息子。コルヴィーノ家の未来。二〇二四年十月」
その瞬間、胸をハンマーで殴られたような衝撃が走り、呼吸が止まった。
車のドアノブを強く握りしめ、必死に立っていようとしたのを覚えている。だが膝から力が抜け、視界が歪み、魂が体から引き抜かれたかのような虚脱感に襲われた。
そして、世界が暗転した。
目が覚めたとき、すでに十二時間が経過していた。深夜のことだ。
マウントサイナイ病院のVIP病室。ベッド脇の椅子にロレンツォが座り込んでいる。その目は充血し、顎には青い無精髭が浮き、シャツは何度も手で握りしめたように皺だらけだった。
彼がロシア人との三億円にも及ぶ武器取引の交渉を放り出し、モスクワから徹夜で飛んで帰ってきたのだと聞かされた。その交渉は、コルヴィーノ家の東欧における勢力図を左右する重要なものだったはずだ。
それでも彼は帰ってきた。
私のために。
まるで四年前、私が初めて体外受精に失敗したあの夜のように。あの時も彼はシカゴの五大ファミリーとのサミットをキャンセルし、病院のベッドで私を抱きしめ、朝まで泣いてくれた。「ジョアンナ、君さえいてくれれば、俺たちはすべてを持っているのと同じだ」と言って。
けれど今、同じ病室の同じベッドに横たわりながら、私は悟ってしまった――あの言葉はすべて、偽りだったのだと。
「ジョアンナ……」
私の気配に気づき、ロレンツォが弾かれたように目を開けた。
「ああ、よかった! やっと目が覚めたか」
彼が私の手を強く握りしめる。数え切れないほどの人間を葬ってきたその手が、今は小刻みに震えていた。
「何があったのか教えてくれ」彼は私の顔を覗き込み、荒い息を吐きながら、瞳に狼狽の色を浮かべて言った。「医者は、君が突然通りで倒れたと言っていた。通行人が通報してくれたそうだ。誰にやられた? 誰の仕業だ? 言え。俺の手でそいつを引き裂いてやる」
血走った彼の目を見つめ返しながら、私の喉は何かが詰まったように熱くなった。
あなたよ。私を壊したのは、あなたなのよ、ロレンツォ。
「医者は低血糖と過労だと言っている」彼の声は自責の念に満ちていた。「ジョアンナ、すまない。全部俺が悪いんだ。最近、展覧会の準備で無理をしていたろう。もっとそばにいてやるべきだったのに――」
私は窓の外へ顔を背け、涙を見せないようにした。
眼下にはハドソン川の夜景が広がり、水面が揺らめいている。かつて二人で何度も散歩した場所だ。ロレンツォはいつも言っていた。子供ができたら、あそこで鴨に餌をやろう、と。
今、彼は確かに子供を授かろうとしている。
ただ、私との子ではないけれど。
三十六時間前の光景がフラッシュバックする――。
私は車の中に身を潜め、ロレンツォがクラウディア――亡き兄マルコの未亡人――に付き添ってクリニックへ入っていくのを見ていた。
四十分後、エコー写真を手に現れた彼は、満面の笑みを浮かべていた。
私には一度も見せたことのない笑顔だった。
純粋で、一点の曇りもない歓喜。
他人の腹に宿った子のために。
私たちは七年の結婚生活、四度の体外受精の失敗、クリニックで泣き明かした数え切れない夜を過ごしてきたが――彼が私にあんな表情を見せたことは、一度としてなかった。
「ジョアンナ、震えているじゃないか」私の異変に気づいたロレンツォが、優しく抱き寄せてくる。「どうしたんだ。何があったとしても、二人で立ち向かえばいい」
彼のシャツから、嗅ぎ慣れない匂いがした――高価な妊婦用ハンドクリームの甘い香りと、病院の消毒液の臭い。
胃の中で何かが激しく逆流した。
私は彼を猛然と突き飛ばし、バスルームへ駆け込むと、便器にしがみついて吐き気をこらえた。
ロレンツォが追いかけてきて、私の背中をさすりながら髪をまとめ、タオルを手渡してくる。普段は弱さや病気を何より嫌う冷徹なゴッドファーザーが、今は驚くほど辛抱強く私の世話をしていた。
「ゆっくりでいい。俺はここにいる」
冷たいタイルに背を預け、私は彼の顔を見つめた。
もしかしたら、誤解なのかもしれない。
彼にはやむを得ない事情があるのかもしれない。
クラウディアに脅されているのか、あるいは母親のマリアに強要されたのか、私の知らない組織の陰謀が絡んでいるのかもしれない。
彼に弁明の機会を与えるべきなのかもしれない――。
「話があるの」私は顔を上げ、彼の目を見て言った。「私たちのことについて――」
その時、ロレンツォの携帯電話が震えた。
画面を一瞥した瞬間、彼の表情が凍りついた。
「少し外さなきゃならない」彼は立ち上がり、早口で言った。「緊急なんだ」
心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。
「ロレンツォ――」
「すまない、ジョアンナ」彼は慌ただしく私の額にキスをした。その目は罪悪感に揺れていた。「母さんが俺を呼んでるんだ。すぐに戻る。二時間、いや、もっと早く戻るから」
「でも、あなたは約束したはずよ――」
「わかってる!」突然声を荒らげ、彼は自分の失態に気づいたように深く息を吸った。「ジョアンナ、わかっている。だが本当に緊急なんだ。戻ったら、ちゃんと話そう。何があっても、俺は君のそばにいる。誓うよ」
そして彼は行ってしまった。
またしても。私が一番彼を必要としている時に。
私はベッドに戻り、虚ろに天井を見つめ続けた。
二時間が過ぎた。
三時間が過ぎた。
夜明け前、私の携帯が震えた。
知らない番号から、動画が送られてきた。
画面の中には、病室のベッドサイドに座るロレンツォが映っていた。彼は片手でクラウディアの手を握り、もう片方の手を彼女のわずかに膨らんだ腹部に置いていた。
「怖がることはない。俺が君と子供を守る」
クラウディアが弱々しく微笑み、彼の手の上に自分の手を重ねる。
その光景はあまりにも温かく、穏やかだった。
まるで、幸せな三人家族のように。
私はその動画を見つめ、震える指で削除しようとした。
七年の結婚生活だ。もう一度だけ、彼にチャンスを与えるべきかもしれない――。
動画の下に添えられた一行のメッセージが目に入るまでは。
「見た? これが彼の大切な家族。あなたはただの飾り物よ。――クラウディア」
七年前、私が初めて流産した時、ロレンツォは私の手を握って言った。「また子供はできるさ。君さえ生きていてくれれば、希望はある」
今、ようやく理解した。
彼が言っていた「子供」とは、一度として私たちの子供のことではなかったのだ。
コルヴィーノ家の「継承者」のことだったのだ。
私の手は無意識に自分の腹部へと滑った――そこには、ロレンツォが永遠に知ることのない秘密が宿っている。
妊娠七週目。
医師からは自然妊娠はほぼ不可能だと言われていた。卵巣機能の低下、虚弱体質、四度の体外受精の失敗。
けれど、奇跡は起きた。
彼が私を裏切っている、まさにその最中に。
私立探偵から受け取ったUSBメモリは、まだハンドバッグの隠しポケットに入ったままだ。クリニックの防犯カメラ映像、ロレンツォが署名した出産契約書、銀行の送金記録――クリニックへ支払われた五十万円。
クラウディアはすでに妊娠十四週目に入っているという。
夫が私の知らないところでこんなことを進めていたなんて、私は何一つ知らなかった。
携帯電話が手から滑り落ち、床にぶつかった。画面が砕ける音が響く。
蜘蛛の巣状にひび割れた黒い画面に、蒼白な自分の顔が映り込んでいた。
その瞬間、私は決めた。
ここを出よう。
ただの家出ではない。私は、消えるのだ。
翌日の夕暮れ時、私は退院手続きを済ませた。
ロレンツォからは「クラウディアの状態が安定した。すぐに迎えに行く」というメッセージが届いていた。
私はこう返信した。「いいえ。ソフィーが迎えに来てくれるわ。あなたはクラウディアについていてあげて」
一時間後、私はソフィーの車の助手席に座り、ブルックリンへと向かっていた。
ソフィー――大学時代からの親友であり、今、私が唯一信頼できる人間だ。
ブルックリンの静かな通りの奥にひっそりと佇む彼女の古書店は、この街で私が安心できる数少ない場所だった。
私の表情を見て、ソフィーは何も聞かず、ただ熱い紅茶を出してくれた。
「ヨットの爆発事故を計画してほしいの」私は彼女の目をまっすぐに見つめて言った。「皆の目の前で、ジョアンナ・コルヴィーノは死ななきゃいけない」
ソフィーはしばし沈黙し、やがて静かに口を開いた。「海上保険の調査員を十年やってたわ。ヨットの『事故』なら、嫌というほど見てきた」
彼女は私の目を射抜くように見た。「ロレンツォ・コルヴィーノは、簡単に諦めるような男じゃないわよ」
「だからこそ、私が死んだと信じ込ませる必要があるの」私はそっと腹部に手を添えた。「四日後。所有船のベラ号で。私たちの結婚記念日に」
ソフィーは深く息を吸い込み、ノートパソコンを開いた。
「わかったわ」
その夜も、ロレンツォは病院でクラウディアに付き添っていた。
私は一人、トライベッカにある別荘――かつて「家」と呼んだ場所――に戻った。
リビングの壁には、七年間の私たちの思い出が飾られている。美術館での出会い、ブルックリンブリッジでのプロポーズ、教会の結婚式。私は一枚ずつ写真を外し、暖炉へと放り込んだ。炎が跳ね、幸せだった笑顔が熱に巻かれて黒く縮れていく。
クローゼットへ向かい、私が彼のために選び抜いたネクタイやカフスボタンをすべて段ボールに詰めた。どれも、かつての私の愛情が込められた品々だ。彼への記念品として残していこう。二百万円の価値がある婚約指輪は、彼の書斎のデスクの中央に置いた。
最後に、私は床から天井まである大きな窓の前に立ち、対岸できらめくハドソン川の灯りを眺めた。
携帯が震える。
ソフィーからの暗号化されたメッセージだ――「手配完了」。
私は腹部を愛おしむように撫で、携帯の電源を切った。
ガラスに映った自分の顔は蒼白で、まるで別人のようだった。
「三日後」私は静かに呟いた。「あなたはジョアンナ・コルヴィーノを失うことになる。永遠に」
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