第10章

美咲視点

F市、冬。鉛色の空が、息が詰まるほど低く垂れ込めている。

私はベビーカーを押して歩く。乗っているのは生後四ヶ月の芽衣。NICUを退院して、まだ一週間しか経っていない。小さな体はピンク色のブランケットに包まれ、その好奇心旺盛な瞳で、初めて見る不思議な世界を映し出していた。

「コーヒーだよ。泡多めにしておいた」

恭平が紙カップを優しく手渡してくれる。

「『全国建築文化賞』授賞式のインタビュー取材、すべて手配済みだ」

立花恭平。私のビジネスパートナーであり、命の恩人。そして今は……そう、私の恋人と呼べる存在なのだろう。

妊娠中の私がたった一人でF市へ逃げた時、彼は...

ログインして続きを読む