第1章

 黄金色の夕暮れの光の中、ラベンダーが揺れている。まるでおとぎ話の中にいるみたいだった。

 これだ。六ヶ月前に翔太が初めて私の手を取ってくれた時から、ずっと夢見ていた瞬間。

 彼は片膝をつき、小さなベルベットの箱が夕日の輝きを捉えた。中に収められた手作りのシルバーリングには、繊細なラベンダーの花の彫刻が施されている。その曲線一つ一つが、彼の献身的な愛を物語っていた。

「瑞希、君は私の根っこだ。君と一緒なら、どこでだって私は成長できる」

 彼の声は低く、その奥深くから響いてくるようだった。胸がいっぱいになり、涙で視界が滲んだ。

「翔太、あなたは私に教えてくれた。癒やしは、一番思いがけない土壌で育つものだって」

 指輪は寸分の狂いもなく私の指に滑り込んだ。暖かくて、確かで、本物だと感じた。

 優しい交響曲のように、周りから拍手が沸き起こった。ラベンダーの花々の中でキスを交わしながら、これが私たちの『癒やしの庭』という夢の始まりに過ぎないのだとわかった。

 私はセラピスト。彼は園芸家。二人で、傷ついた魂のための聖域を創り出すのだ。

「うそ、まるで映画のワンシーンみたい!」友人の紗代が、他の人たちと一緒に駆け寄りながら声を弾ませた。

「瑞希、結婚式はいつ?」

「翔太、その指輪、自分で作ったの? すっごく素敵!」

 笑い声と祝福の言葉が黄昏の空気に満ちた。クリスタルのグラスの中ではシャンパンの泡が踊り、最後の日差しを反射していた。

 すべてが完璧だった。

 ――そうではなくなる、その瞬間までは。

 庭の門が、私たちの祝宴をナイフのように切り裂くほどの激しさで、乱暴に開け放たれた。

 シャープな黒いビジネススーツに身を包んだ女性が、砂利の小道を大股で歩いてくる。その視線はレーザーのように翔太に突き刺さり、驚く招待客たちの群れを貫いていた。

 翔太の顔から、さっと血の気が引いていくのが見えた。

 彼の手の中のシャンパングラスが震えていた。

「涼子……?」その名前は、祈りのようにも、あるいは呪いのように、彼の唇から漏れた。

 すべての会話が止まった。聞こえるのは、彼女の近づいてくる足音と、私の雷鳴のように鳴り響く心臓の音だけだった。

 彼女は翔太の真正面で立ち止まり、自分に向けられる五十対もの驚愕の視線を完全に無視した。

「冬木翔太、あなたはまだ私に7,500万円を支払う義務がある。新しい女を見つけたからといって、離婚の慰謝料が消えてなくなるわけじゃないのよ」

 離婚? 7,500万円?

 足の力が抜けていく。「離婚って……? 翔太、彼女、何の話をしてるの?」

 翔太は額に汗を浮かべ、言葉に詰まった。「涼子、これは……後で話そう……」

「話し合うことなんてないわ」涼子はブリーフケースから分厚い法的な書類の束を取り出した。「裁判所の命令は明確よ。三十日以内に支払うか、さもなければ法廷で会いましょう」

 彼女は、まるでゴミでも捨てるかのように、その書類を彼の足元に落とした。

 それから彼女は私の方を向いた。その冷たい瞳の中に、一瞬だけ、哀れみのようなものがよぎったのを私は見た。

「気をつけることね、お嬢さん。この男は真実を隠すのがとても上手だから」

 彼女のヒールがカツカツと遠ざかり、後には墓場のような沈黙が残された。

 招待客たちの間に、さざ波のように囁き声が広がり始めた。

「翔太、結婚してたの?」

「7,500万円? マジかよ……」

「瑞希ちゃんは知ってたのかな?」

 私は自分の婚約指輪を見下ろした。ほんの数分前まであんなに暖かく感じられたシルバーが、今は肌の上で冷たく重く感じられた。

 私のおとぎ話は、粉々に砕け散った。

 深夜。北海にある、私たちのアパート。

 床から天井まである窓から街の灯りが流れ込み、私が一人で座っているベッドに影を落としていた。翔太はリビングで、ひそひそ声で電話をしている。

 私のスマートフォンが、通知で爆発しそうだった。

 画面にお母さんの顔が現れ、それに続いてテキストメッセージと写真が洪水のように押し寄せてきた。

 最初の画像を開いて、息を呑んだ。

『診断書

  患者氏名 星野玲奈

  診断名 重度うつ病、自殺念慮あり 治

 療方針 入院加療が必要と判断します

 備考 早急な対応が望ましいと考えます

 川崎総合病院 精神科』

 ボイスメッセージが再生されると、私の手は震えた。

「瑞希、あなたの大切な日に負担をかけたくはないんだけど……もう、この暗闇と戦えないの。お医者様が、すぐに治療が必要だって」

 スピーカーから、お母さんのすすり泣きが聞こえてくる。「もう睡眠薬も買ってあるの。もし750万円の治療費が用意できなかったら、私……いつまで持ちこたえられるか……」

 銀行のアプリを開くと、心臓が肋骨を激しく打ちつけた。

 750万円。翔太と私が、『癒やしの庭』のために貯めてきた、まさにその金額だった。

 二年間の慎重な計画。二年間の夢。

 でも、お母さんの命は、夢よりも大切だ。

「どうして気づかなかったんだろう。婚約披露宴では元気そうだったのに……」

 ほんの数時間前、彼女が招待客と笑い合っていたのを思い出す。この衝撃的な診断書に書かれているような、うつ病の兆候は微塵もなかった。

 でも、医療書類は嘘をつかない、でしょう?

 送金を確定しようとした、その時だった。翔太が電話を終えて寝室に入ってきた。

 彼は私のスマートフォンの画面を見て、優しく私の手からそれを取り上げた。

 診断書に目を通すうちに、彼の眉間の皺が深くなった。

「瑞希、怖いのはわかる。でも、この日付を見て。昨日診断された人が、どうして今日の婚約披露宴で平気でいられるんだ?」

 彼は診断書の日付を指さした。その声は優しかったが、断固としていた。

 怒りが胸の内で燃え上がった。私はスマートフォンをひったくるように取り返した。「本気で言ってるの? 私の母が自殺の診断を偽造するって? あなたの謎の元妻が現れて7,500万円を要求した、まさにこの直後に?」

「母は命がけで戦ってるのよ。それをあなたは、ここに立って病気を疑うわけ?」

 翔太が私を慰めようと手を伸ばしてきたが、私は身を引いた。彼は続けた。「これがどう見えるかはわかってる。でも、何かがおかしいんだ……」

「触らないで!」私は鋭く言った。「あなたに『おかしい』なんて言う資格はないわ。結婚してたことさえ、私に話してくれなかったくせに!」

「涼子のことは説明できる……」

「説明?」私は苦々しく笑った。「7,500万円の借金を、一体どう説明するつもり? それとも、あの深夜の弁護士からの電話は?」

 翔太が凍りついた。「私の通話履歴を見たのか?」

「他にどうやって、私の婚約者が完全な詐欺師だってわかるっていうの?」

 私たちは、壊れた信頼という海の向こう側で、互いを見つめ合った。

 あのラベンダー畑での魔法のような夜が、まるで遠い昔のことのように感じられた。

 翔太は重いため息をついた。「……ソファで寝るよ」

 寝室に一人きりになり、銀行のアプリを見つめながら、涙が頬を伝った。

 私はお母さんにテキストを送った。「お金、送ったわ。病院に行って」

 婚約指輪を指で回す。その重さが、突然耐え難いものに感じられた。

 突然、スマートフォンが震えた。

 発信者表示は、川崎総合病院 救急外来。

 わずか十二時間のうちに、私の完璧な人生は、音を立てて崩れ落ちる砂上の楼閣と化していた。

 この電話は、どんな知らせを運んでくるのだろう?

 私は画面を見つめ、指を通話ボタンの上でさまよわせた。

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